CASE.2 千葉県立袖ヶ浦高等学校 生徒を信頼しモラルを育てる 生徒も教員も変えるITを活用した学びのあり方
千葉県立袖ヶ浦高等学校情報コミュニケーション科では、全生徒に1人1台、iPadを必携させ、あらゆる科目でITを自然な形で活用し、日々の授業を実践している。「2012年度日本e-Learning Award」において、県立高校にして並みいる先進企業を抑えて大賞を受賞したことからも、その取り組みの先進性が伺える。同校のこれまでの取り組みと、生徒や教員に生じた変化を紹介する。
●背景情報コミュニケーション科新設の目的
千葉県立袖ヶ浦高校は、生徒数定員880人、1976 年に開校した県立高校である。2011年に新設された情報コミュニケーション科は、ITを活用し、コミュニケーションをとれる若者を育てるためにつくられた。コンピューターやプログラミングの技術者・専門家を育成する学科ではない。あくまで、「社会の変化に対応し、主体的に情報手段を積極的・適切に活用し、社会で活躍し、生涯にわたって主体的に学び続ける生徒の育成」を目的としている。
2011年の情報コミュニケーション科の立ち上げからかかわっている永野直氏は、世の中でインターネットやコンピューター、モバイルデバイスがごく当たり前の存在になってきているのに、学校現場ではまだまだ特別視されていることに危機感を抱いていたという。
そのためITをもっと日常的に、ツールとして自然に使いこなすことで学習効果を上げていくことが、この学科創設に当たって意識された。
「eラーニングといっても、従来の教科書をデジタルに置き換えるといったことや、所与のデジタルコンテンツをiPadで学んでいくといったことではありません。これまでの授業、通常の教科書に、1枚の写真、10 秒の動画を利用することで、大きな学習効果が生まれるのです。
そうであれば、プラスアルファとして気軽に利用していこう、生徒の表現や創作、思考のツールとしても日常的に使っていこう、そうすることが、問題解決力やIT 活用能力、コミュニケーション力の高い若者を育てることにつながると考えたのです」
このような学びの環境を実現するため、情報コミュニケーション科では生徒に1人1台、iPadを購入することを義務づけることとした。併せてPages、Keynoteといったいくつかの有料アプリも、生徒負担で必携とした。
学校には、千葉県が引いたインターネット回線が通っていたが、それは利用せず、学校側で20 数台のアクセスポイントを設置し、Wi-Fi環境を整えると共に(なお、インターネット回線については、セキュリティー上の制約がある県の回線ではなく、生徒用の回線を別途調達し、授業用のiPadだけにしかつながらないよう設定している。生徒の個人情報や成績などを扱うネットワークとは物理的に分離されている)、各教室に1台の電子黒板、AppleTV、そしてiPadを保管しておけるカギ付きの個人ロッカーといった装備を整えた。
●具体的な学習の中身生徒と教員で開発するITを使った授業
このような環境のもとで、どのような学びが行われているのか、まずは実例を紹介しよう。iPadだけで授業をすることはなく、通常の教科書とノートと一緒に使用されている。