CASE.1 小倉第一病院 高いITリテラシーを基盤に自分たちでつくり、自分たちで学ぶ 基本情報現場に溶け込むモバイルラーニング
福岡県北九州市にある医療法人真鶴会小倉第一病院は、医療業界でいち早く、2004年より職員教育にeラーニングを導入した。さらに2009年からは新入職員全員にモバイル端末を配付、モバイルラーニングの実践を通じて、職員の学習意欲向上などの効果を生んでいる。これからの企業教育のあり方や、企業におけるモバイルラーニング推進に際してのヒントを学ぶべく、モバイルラーニング先進事例を取材した。
小倉第一病院( 北九州市)は、1972 年12月に開院、血液透析・腎臓病・糖尿病を専門とする病院で、職員数は119 名である。パイオニア的なeラーニングの導入活用で、日本e-Learning大賞・審査委員特別優秀賞を受賞(2005 年)した他、北九州市から「子育てしやすい環境作りを進める企業・団体等表彰の市長賞」(2006 年)、「ワークライフバランス表彰市長賞」(2008年)などの表彰を受けるなど、人材教育と魅力的な職場づくりに力を入れていることで知られている。
● 背景見て盗むよりも確実な学習を
かねてから新人看護師の育成は、プリセプター制度といわれる、マンツーマンのOJT 制度を通じて行われていた。しかしながら、伝統的な医療現場には、教える側に「見て盗むもの」という意識があったり、一刻を争う中で丁寧な指導ができなかったり、学ぶ側も納得できるまで質問することが難しい場面があった。たとえば医師の手技の介助1つをとっても、その手順は込み入っているうえに、病院ごとの決まりがあるなど暗黙知的なノウハウも含まれる。患者の状態によって、いつどの看護師が、その介助をやらねばならないかもわからないため、全員がOJTで覚えていくには時間がかかる。
また、夜勤や交代勤務のある職場であるため、全員が集まっての勉強会も不可能である。ワークライフバランスにも配慮した、柔軟な研修方法が求められる中、2002年頃から、eラーニング導入が検討されるようになったのである。
といっても、医療者のためのeラーニングコンテンツが市販されているわけではない。当時すでに病院内に導入されていたイントラネットで、点滴の手順や、血圧低下時の対処法といったマニュアルが公開・共有されていた。そこで、このマニュアルをベースにeラーニングコンテンツを作成していこうという方針のもと、まずは看護師3名、臨床工学技士3 名から成るプロジェクトチームが結成され、コンテンツづくりが始まった。
目標は、2004 年度の新入職員を迎えるまでにeラーニングを導入すること。LMS(学習管理システム)とハードウェア込みの予算は100万円とされた。
● コンテンツづくりのポイント試行錯誤でルールづくり
コンテンツを作成することにしたとはいっても、医療現場でのeラーニングの実践など、まさに前例のない取り組みであり、当初は何をどんなふうに作ればよいのか、全くわからない状態であった。当時MIT(MedicalInformation Technology)を担当していた隈本氏は「試行錯誤の連続で、9 割は失敗だった」と語っている。
大きな失敗は、コンテンツを作っても、職員に読んでもらえなかったこと。そこで、写真やイラストを多用してグラフィカルに作成するように工夫を重ね、コンテンツのフォーマットを試行錯誤しながら少しずつ固めてきた。今では、フォーマットがあることで誰でも教材をつくることができるようになっている。