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人材教育最前線 プロフェッショナル編 成長への意欲を引き出し現場で育てる環境づくり
何事にも自ら進んで積極的に行う「自発」、自分自身を管理する「自治」、そして、自分が置かれている立場・役割・状況をよく認識する「自覚」の『三自の精神』を行動指針に掲げるキヤノン。その『三自の精神』を根底に、「現場での成長を推進、加速するために研修や教育プログラムがどのようにサポートできるかという視点に立ち、考えている」と話すのが、人事本部 人材開発センター 部長の狩野尚徳氏である。会社の発展と社員の成長を支えていたのは、狩野氏の「人は現場で育つ」という、揺るぎない信念だった。
成長は本人の意識と現場経験から
「人は、本人が“成長したい”という意識になって初めて成長するものだ」と話すのは、人事本部 人材開発センター 部長の狩野尚徳氏だ。よりレベルアップ、スキルアップしたいという自らの意欲がベースになければ、どんなに立派な研修を提供しても無駄に終わってしまう。例えば研修に、“上司から行くよう指示されたから仕方なく参加した”という社員と、“1つでも多く吸収して帰ろう”という社員では、得るものが大きく異なる。さらに、「人を成長させるのは何より現場の体験だ」と狩野氏は続ける。「知識やスキルの研修は、あくまで現場での実践を補完する役割に過ぎません。仕事を通じた成長のための環境をつくり、いかに本人の心に火をつけ、気づかせるかが人材育成のポイントです。ですから、現場での成長を最大限引き出すことをサポートするのが研修部門の役割だと考えています」
営業、出向、海外赴任──環境の変化が成長の契機
現場体験こそが成長の要であると語る狩野氏。そうした考えを持つようになった理由は自身の経験の中にある。狩野氏がキヤノンに入社したのは、1988年。当時は入社後の基礎教育が終了すると実際の現場に入り、長期の実習が行われた。狩野氏も生産工場でベルトコンベアの前に立ち、製品の製造に3カ月間携わると、さらにその後1年間、営業の現場で働いた。自分の足でオフィスを1軒1軒訪ね、主にコピー機を売っていく、いわゆる飛び込み営業だ。「この1年3カ月間でモノづくりやモノを売ることの大変さを体感しました。会社で働く厳しさや基本を現場で身をもって学んだよい経験でした」実習を終えると本社の人事本部に配属され、国内関係会社管理などを担当した。そうした業務経験からか、入社5年目の1993年、店頭公開を目前に控えていたグループ会社、キヤノンアプテックス(現・キヤノンファインテック)に出向となった。この異動が「自己成長の大きな転機となった」と狩野氏は振り返る。
プロフィール

狩野 尚徳(Hisanori Kano)氏
1988年、キヤノン入社。1993年、キヤノンアプテックス(現・キヤノンファインテック)出向。1998年から約6年間、キヤノンブルターニュ、キヤノンヨーロッパN.V.と海外を経験後、日本本社の人事本部に戻る。2013年1月、人材開発センター部長就任、現在に至る。
キヤノン
1937年設立。独自のイメージング技術により、カメラ、複合機などのオフィス機器、産業機器などの分野で事業を展開する。
資本金:1,747億6,200万円、連結売上高:3兆7,314億円(2013 年12月決算)、連結従業員数:19万4,151名(2013 年12月31日現在)
取材・文・写真/髙橋 真弓