グローバル調査レポート 第6回 ASEANでの事業展開を成功に導くマネジメント ~現地と共に進化する経営に向けて~
日本企業のこれからの成長戦略のうえで、ますます注目度が高まるASEAN地域。ものづくりの拠点のみならず、販売市場としても、多くの日本企業が事業の拡大を進めている。ASEAN地域で事業を展開する中で、企業はどのような課題に直面しているのか。そして、現地の力を活かし、事業を成功させるために必要なマネジメントのあり方とは何か。日本能率協会(JMA)がASEAN地域3カ国を対象に行った調査結果から、そのヒントを探る。
人口6億人を抱え、今後も大きな発展が期待されているASEAN地域は、生産拠点としてだけではなく、中間所得層が拡大することで、消費市場としても、大きく成長することが見込まれる。さらに2015年末の域内経済統合により、ますますその存在感が高まっていくであろう。当然ながら、国内市場が成熟化する中で、日本企業にとってもASEAN地域の重要度は高まっており、多くの企業が事業展開を進めている。日本能率協会では2013年8月に、日本企業のASEAN地域への事業展開と課題についての調査を行った。日本国内に加えて、ASEAN地域のうち、地域統括機能が集まるシンガポール、ものづくりの要であり中進国でもあるタイ、そして新興市場として急成長しているインドネシアの3カ国を対象に、経営者へのアンケート調査を実施した。さらに、現地進出日系企業の経営者へのインタビュー調査を通じて、現地の力を活かし、ASEAN地域での事業展開を成功させるために求められるマネジメントとは何かについても研究を行った。
1.ASEANへの事業展開――市場としても意識1
まず、ASEAN地域への事業展開の状況から見ていきたい。図1の通り、現状としては「現在、事業を行っておらず、今後も予定はない」企業が46.2%あるものの、「進出を検討している」ならびに「さらに拡大する予定である」企業が合わせて46.4%となっている。約半数の企業が、積極姿勢を示していることがわかる。本調査では、アジアの国・地域別に、現在ならびに今後の拠点設置状況を尋ねているが、生産拠点については、中国が最大の拠点展開先ではあるものの、5年後には減少するという結果であった。一方で、インドネシア、ベトナム、ミャンマーが増加している。いわゆる「チャイナ・プラス1」の傾向が浮き彫りとなった。また、販売拠点については、アジア各国のほとんどにおいて拠点が増加する結果となり、アジアの成長を取り込もうとする姿勢を見ることができた。さらに、研究開発拠点についても、特にタイ、シンガポール、ベトナムにおいて今後の大きな増加が見込まれ、現地市場向けの製品開発を強化する動きが見られた。また、ASEAN地域への事業展開状況に関しては、進出拠点の機能のあり方についても、現状と今後の位置づけを尋ねている。その結果によると、生産拠点の機能としては、現在は日本国内市場向けの比率が高いが、今後は現地ローカル市場向けとしての役割が最大となる。さらにASEAN市場向けや、グローバルなサプライチェーンの中での主要生産拠点としての機能も高まっていく傾向にある。同様に、販売拠点や研究開発拠点についても、現地ローカル市場向けの役割がさらに高まると共に、ASEAN市場向けやグローバルの中での主要拠点としての役割が高まっている。先述の通り、日本国内の回答企業の半数近くがASEAN地域に事業を進出・拡大する方向にあるが、これらの調査結果から、単に進出国への生産拠点や販売拠点の展開ではなく、ASEAN市場、さらにはグローバルな事業展開の中の1つの重要な極として位置づけていることがうかがえる。
2.堅調、だが人員は抑制傾向
調査では、ASEAN地域の事業展開の状況についても尋ねている。図2の通り、日本国内の回答では約半数の企業が現地での事業が「順調に推移している」としている。またASEAN現地側の回答では、全体としては68.4%が順調であるとし、特にインドネシアでは83.1%が順調となっている。事業の状況については業績にも表れている。売上高、営業利益、従業員数のそれぞれについて、3年前と比べた現在の状況を尋ねたところ、ASEAN3カ国全体として68.4%の企業が増収、58.4%が増益と答えている。ここでも特にインドネシアは、売上高ならびに営業利益が増加した比率が他の2カ国よりも高い。また、3年後の見通しについても、売上高では73.2%、営業利益では67.3%の企業が「増加する」と答えており、業績予測においてもASEAN事業の好調ぶりを見ることができる。