特別企画 KAIKA カンファレンス 第一弾 HRD JAPANがKAIKAカンファレンスに進化 ~個の成長、組織の活性化、組織の社会性に目を向ける~
1982年から開催されてきた「HRD JAPAN(能力開発総合大会)」が、今年から新たに「KAIKAカンファレンス」として生まれ変わった。従来の組織をベースとした能力開発(HRD)の領域にとどまらず、個の成長・組織の活性化・組織の社会性を同時に実現するKAIKAの考え方をベースに、既成の枠を超えて新しい知の融合から応用点を探る場を提供する。オープニングでモデレータを務める伊藤良二氏が、KAIKAカンファレンスの背景にある企業と人事の今後の課題を、経営戦略の視点から語る。
経営戦略上も重要なKAIKAの3テーマ
KAIKAカンファレンスでは、進化する3つのポイントとして、1.課題の本質に迫る2.事例の応用点を探る3.既成の枠を超えるを挙げているが、これらは経営戦略を考えるうえでも重要なポイントである。まず、1の課題の本質に迫ることについて。経営戦略にかかわる人間の間では「True North」という言葉がよく用いられる。方位磁石が指す北は、実は本当の北を指しておらず、少しずれている。それに対してTrue Northが意味するのは「本当の北」、すなわち「本質」である。さまざまな問題に直面した時に、「その問題の本質は何か」「原因のさらに裏にある原因は何か」「底まで掘り起こせ」という意味になる。この姿勢は、これから全てのビジネスパーソンに必要とされるのではないだろうか。次に2.「事例の応用点」について。現代はさまざまな情報を入手することができるが、それは競争相手も同じこと。能力にそれほど差がなければ、出てくるソリューションは総じて似たものになる。では、どこで差別化するのかというと、情報の切り取り方である。例えばカンファレンスで紹介されるさまざまな他業種の事例から、何をどう切り取って自社に応用できるか、といった視点を持つことが重要になる。3.「既成の枠を超える」は、英語では「Out of box thinking」と表現される。人間はとかく既成の枠に収まろうとしがちだ。しかし、問題を解決する時には、規則や商慣習など既成の枠を取り払い、ゼロベースで考えることが重要だ。例えば、経営や人事に関する課題が出てきた時に、解決策をゼロから新しくつくることができたら、どういうことができるかをまず考える。それから現実に戻り、それを実現するためのボトルネックはどこで、どのようにそれを解消していくかという道筋をたどることが大切である。「既成の枠を超える」際、経営戦略の世界では「戦略的自由度」という言葉を使う。戦略的自由度とは、有効な戦略をどれだけ打てるかという打ち手の数の多さをいう。自由度が高いほうが企業にとっては打ち手の選択肢が増えて有利なわけだが、戦略的自由度は、時間軸、地域軸、バウンダリー(境界)、すなわち事業領域を超えることで高めることができる。時間軸とは、1年では無理だが、3年あれば実行可能性は高まるといったこと、地域軸とは、国内だけでなく国外まで視野に入れれば発想も広がるし、打ち手の数も増える。バウンダリーについては、ドイツのメーカーであるボッシュの例が典型的だ。従来の事業領域である自動車部品の製造業という自社の事業領域を再定義し、自動車分野並びに部品製造というバウンダリーを取り払い、広く電機分野の最終製品まで事業領域を広げたのである。その結果、戦略的自由度が高まり、成長を担保できた。こうした話は、経営論や戦略論の中で頻繁に出てくることである。人事の領域でもどれだけ、枠を超えることができるか──保守的になりやすい人事だからこそ、戦略的自由度を高めるようにさまざまな角度からのチャレンジを期待したい。
価値創造の才能を持つ個人が組織の価値を創造する時代
これからのビジネスは、インプルーブメント(改良、改善)ではなく、イノベーション(革新、変革)だと言われている。成熟社会で市場が伸びにくい環境では、何かを創造していかなければ市場を拡大することはできない。だが、日本企業の多くはインプルーブメントを得意とし、イノベーションが苦手とされる。それは、イノベーションを起こす担い手が、個人だからだろう。日本企業は集団で事に当たるのは得意だが、イノベーションは組織からは起こらない。イノベーションの種は、個人が持っているのだ。したがって、これからはイノベーションを起こせる個人の存在が、組織の価値の源泉となる。そして、その個人を組織の中で活かすことができるかどうかに組織の命運がかかっていると言っても過言ではない。