CASE.3 コングレ おもてなしの輸出に必要なもの 国際会議を成功させる“おもてなしディレクション”を形式知に
48年ぶりに日本で開催された「国際通貨基金・世界銀行年次総会(IMF・世銀総会)」(2012年10月)。188カ国の財務相・中央銀行総裁ら1万人を超える参加者を集めるこの世界最大級の国際会議を、会場のレイアウト、装飾、ボランティア運営、都内3会場間の車両移動から警備に至るまで、一手に取り仕切り、ニッポン的おもてなしで彩った企業が株式会社コングレだ。そのビジネスを支えるおもてなし人材の育成について伺った。
MICE(マイス)という言葉をご存じであろうか。ミーティング(企業等の会議)、インセンティブ(報奨・研修旅行)、コンベンション(国際会議等)、イベント・エキシビション(展示会・見本市等)の頭文字を取った造語で、国際会議等を含む多くの集客交流が見込まれる大規模なビジネスイベント等のことを言う。その経済効果の大きさから、2013年6月に政府が発表した経済成長戦略にもMICE誘致強化が盛り込まれている。2020年の東京五輪決定を受けて押し寄せる訪日外国人に、日本ならではの「おもてなし」を国際社会にどうPRしていくか──MICEへの関心は高まっている。コングレ(本社:東京都千代田区)はそのMICE全てを取り扱い、特に会議運営事業に強みを持つ、総合コンベンション企業だ。国が行う重要・大型国際会議のシェアは50%を超えており、「国際会議のコングレ」として評価は高い。国際会議の場合、リエゾン(連絡調整官。期間中、各国代表団などに随行してサポート)やアテンダント(接客係)など、最前線で参加者に接するおもてなし人材が多数必要になる。同社は、ボランティアやアルバイトスタッフも含め、おもてなし人材の育成・配置、管理を行っており、さらに、この会議運営事業を通して蓄積される接遇ノウハウを、文化集客施設の運営事業へ展開。六本木ヒルズ展望台や、浅草文化観光センター等、全国で80カ所の施設を運営している。
●グローバルなおもてなしとは先を読んで察する力
国際会議や文化施設の運営において、外国人から評価される「おもてなし」とは、具体的にはどのようなことを指すのか。お客様が行き先に迷っていれば、実際に同行してご案内する、子ども連れの方にトイレの場所を尋ねられれば、実は授乳したいのではないかと気づく──このような「察する力」が、日本的おもてなしの基本です、と武内紀子社長は語る。「欧米人は、何かリクエストがあれば、ハッキリと言葉でそれを伝えます。他方で日本人には、察する、場を感じる、空気を読むことを重視する特性があります。このように元来の違いがありますから、お客様の様子や状況を観察し、お困りのことを察して、こちらから声をかけるという日本的サービスが、欧米人にはプラスアルファのこととして驚きを持って受け取られ、評価されるのです」(武内氏、以下同)先を読んで察する力は、現場経験を積むこと、情報共有を重ねていくことで、十分にトレーニング可能なのだという。「お客様が、どのような状況で、どのようなことに困っているのか。様子を見ていれば、困っているパターンがわかってくるものです」特に文化施設運営事業では、業務日報を分析することで、気配りや注意が必要となるパターンを抽出。危険箇所、顧客が困る事象やポイントなどを明確にし、対処やおもてなしの方法をシェアする。管理職の定期的なミーティング、本社から各施設への資料などで共有し、浸透を図っている。