COLUMN 多様な職務経験を持つ現役女性部長が語る 部長が持つべき俯瞰的視点はどのように身につけられるのか
部長が「会社の一社員」としての視点を卒業し、持つべき視点とはどんなものか。そうした視野を持つために部長、そして人事・人材開発部に求められるものとは何か。人事と広報を経験し、部長として10年のキャリアを持つJTB総合研究所の波潟郁代氏に話を聞いた。
社会の中の自社という広い視野を持つ
私はJTBに入社後、支店の海外旅行販売担当を経て、4年間、本社の人事に携わりました。その後、初めて部下のいる管理職に就いたのが2001年、出向先の営業課長です。2005年に成城支店長に就任して以降、グループ本社の広報室長や現職のJTB総合研究所の企画調査部長として約10年、部長職を務めています。その経験の中で、私が部長として最も大切だと実感しているのが、「仕事を俯瞰して考えること」です。これは人事時代、人事管理や採用などを通して、ステークホルダー以外の方々と親交を持つことができたことが始まりです。まだ若いうちに、旅行会社JTBの視点だけではなく、「社会の中の自社」という考え方に気づいたことで、のちの仕事観にも大きな影響を与えました。
その後、「社会の中の自社」という視点を具体的に実践したのが支店長時代でした。JTBの支店は、住宅街でもビジネス街でも個店舗で、建物の1階に立地する場合が多く、地域とのかかわりが非常に密接です。そこで必要になるのは、地域の人々をお客さまとして迎えるというより、地域の中で同じ空気を吸い、同じ消費活動をする「共存」という関係性への意識です。私も初めての部長職である支店長になった際、商店街や自治会の会合など外との接点が一気に増えました。その中で、部署や会社内だけでなく、自分が社会や地域の中でどういう立場にあるのかという視点を持つ必要性を学んだのです。部長には、業界内だけではなく社会で自社がどういう役割を持っているかを理解したうえで、「自分自身が何を意識して仕事をすべきか」という広い視野が大切です。視野が広がれば、ただがむしゃらに突き進むのではなく、例えば「自分の部署がここで前に出ていけば評価につながるが、会社のためには今は少し引いた立場にとどまったほうがよい」といった「全体最適」の視点が生まれます。
目の前の課題を解決するだけでなく、先を見ながら考え、布石を打つという「経営の視点を持った管理」こそが、単なる部署の管理を担う課長とは異なる、部長の役割ではないでしょうか。また、仕事のうえでも、部下を導くうえでも、外の世界も含めて社内横断的に俯瞰することで、どのような状況下であっても自分がなすべきことが見えてくると思います。私が支店長を任された当時、社内には「女性や年少者の活躍の場をつくろう」というダイバーシティの流れがありました。それまでのJTBは保守的な体質もあって経営上層部は男性が占め、女性の活躍実績がほぼない中での抜擢でした。そのため、同世代の女性課長からは「本社にいたから部長になれた」などと言われることもありました。
そんな中で私の支えだったのが、私を支店長に推してくれたある人の「反対する人が50%、応援してくれる人が50%いるだろう。その応援してくれる50%の人のために働きなさい」という言葉でした。現場でも、年上の部下の「お手並み拝見」という態度があって、支店長になったばかりの頃は苦労が絶えませんでした。しかし、部下がいかに自ら考え、よいパフォーマンスを発揮してお客さまに信頼される人材になってくれるかを、いつも考えていました。