巻頭インタビュー 私の人材教育論 他社と違う発想を生む考え抜く環境づくりとタテヨコ思考法とは
34年間勤めた日本生命を58歳で退職し、2008年、60歳の時「子育て世代の保険料を半分に」を旗印にライフネット生命保険を開業。当時は「還暦ベンチャー」と話題になった。2012年には開業からわずか4年足らずで東証マザーズ上場、5年目で契約件数15万件、売上高59億円に達するという驚異的な成長力により、黒字化も視野に入っている。同社の人材に求められるのは「考える力」だと語る出口治明会長に、社員の採用方法や育成の考え方について聞いた。
保険料を半分にして若い世代に子どもを産んでもらう
──ライフネット生命保険の開業は、日本では74年ぶり、戦後初となる独立系生命保険会社の誕生となりました。6年目を迎えられた今、経営は第2ステージに入られているとお聞きしました。
出口
当社は2008年5月にインターネットを主な販売チャネルとした生命保険会社としてスタートしました。経営の第1ステージとして「5年間で保有契約15万件を獲得する」という目標を掲げ、これはほぼ半年前倒しで達成できました。その間の2012年3月には東証マザーズへの上場を果たし、現在は経営の第2ステージに入っています。第2ステージの目標は「2015年度末に売上150億円の達成と実質的な黒字化」です。達成できれば、生保業界としては史上最短での黒字化となります。当社のミッションを一言でいえば、「保険料を半分にして、若い人たちに安心して赤ちゃんを産んでいただく」ということです。日本は高度成長期を過ぎて成熟期を迎え、若い世代、特に20代と30代の方々が貧しい状況にあります。今の20代の平均世帯年収は、共働きでも年間300万円強です。おそらく、これが少子化の根本的な原因だろうと私は見ています。この状況に対して私たち保険会社にできることは、せめて保険料を半分にして、少しでも生活に余裕を持っていただき、安心して赤ちゃんを産めるように応援することです。それは取りも直さず、「今の生命保険業界を変えたい」という意思でもあります。世の中の若者がこれほど貧しくなっているのに、いまだに高度成長期と変わらない古い体質で営業している保険会社が多過ぎます。立派なビルをいくつも持ち、営業職員をたくさん雇い、コストの高い大量販売を平気で続けている。当社のビジネスモデルを問われたら、私はよく缶ビールで説明します。缶ビールをスーパーなどで買えば、200円ぐらいですよね。でも、居酒屋では500円ぐらいします。同じビールが2倍以上の値段でも文句を言わないのは、居酒屋の500円には人件費や家賃、光熱費などが含まれているとみんな知っているからです。当社のビジネスモデルはといえば、缶ビールです。店舗をインターネットに限定し、販売員を一切使わないことで、コストを思い切り下げています。それに対して、大手生保会社の商品は居酒屋のビールです。どちらを選ぶかはもちろん、お客様の判断によります。当社のいわゆる売上高は約59億円、従業員は約100名ですが、こんなものはまだ「ナッシング」です。というのも、日本の生命保険市場は約43兆円あり、59億円はそのたった0.01%に過ぎないからです。私たちには、今後この「ナッシング」を「サムシング」に変えていく戦略が必要です。
ビジネスの要諦は「数字」「ファクト」「ロジック」
──具体的な仕事内容に関して、第1ステージと第2ステージとで違いは出てくるのでしょうか。
出口
大きな違いはありませんが、第1ステージでしていたことを、さらに徹底して追求する姿勢が必要です。例えば、時代の変化に機敏に対応していくこと。5年前のインターネット環境はパソコンが中心でしたが、現在はパソコンよりもスマートフォンが主流です。実は生保会社で、スマートフォンから保険を申し込めるのは当社だけでした。昨年秋に楽天生命さんも始めましたが、今後はもっと増えるでしょう。そのようにテクノロジーの面では、常に最先端を行く必要があります。また、当社はヘルプデスク協会(HDI-Japan)の「問合せ窓口格付け」と「サポートポータル格付け」で、2012年、2013年と2年連続で最高評価の三つ星をいただきました。しかしこれにもさらなる進化が必要です。これまではお客様からの問い合わせにお応えするだけでしたが、今後はこちらから積極的にサポートしていくことを考えています。保険商品も、第1ステージの経験やノウハウの蓄積を活かして、さらによいものを開発していきたいですね。すべきことはたくさんあります。