COLUMN1 「我慢の3年」から「勝負の3年」へ 大切なのは、何のためにどう過ごすのか ことわざから見る「3年」の意味 時田昌瑞氏 日本ことわざ文化学会 副会長

「石の上にも三年」「茨の中にも三年」「桃栗三年柿八年」など、「3年」という時間が登場することわざは少なくない。
長い歴史を持つことわざに「3年」が使われる理由は何なのか。
また、ことわざのなかの「3年」の意味合いは、変化しているのか。
ことわざ研究の第一人者であり、日本ことわざ文化学会副会長の時田昌瑞氏に聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=編集部
「石の上にも三年」の原義とは
現代の日本人は人生80年時代を生きている。江戸時代で35~40歳、明治、大正、昭和前期までは50歳にも満たなかった平均寿命が、以降の80年足らずで2倍近くに伸びた結果である。当然、昔と今とでは、時間の長さや歳月の重みに対する人々の感覚は異なるだろう。
そこで「3年」である。古くからのことわざには「石の上にも三年」「桃栗三年柿八年」など、物事の節目を「3年」という年数で表す言葉が少なくない。

『岩波ことわざ辞典』の著者でことわざ研究歴40年以上の泰斗、時田昌瑞氏の調べによると、3年に関連する日本のことわざの総数は176、そのうちもっともよく使われているのは、先述の「石の上にも三年」、2位に「桃栗三年柿八年」が続く(図1)。
「『石の上にも三年』には『石の上にも三年いれば温まる』という別の言い方もあり、江戸時代からいくつも用例が確認できます。それぐらい我慢して座っていれば、冷たい石の上でも体が温まってくるよと、それが原義なんですね。日本のことわざの発想では『3年』は決して短い時間を意味しません。むしろ、それ相応に時間がかかるイメージ。同じ意味のことわざに『茨の中にも三年』がありますが、どちらもそれぐらいの我慢、忍耐が必要だと言いたいわけです」
「桃栗三年柿八年」のように、3年以外の年数ももちろん出てくるが、時田氏は「ことわざ全体では3年が一番多いのではないか」と推測する。ちなみに、「桃栗三年柿八年」には「柚子は九年でなりさかる」「梨の馬鹿目が十八年」など、様々なパターンの“続き”がある。
「3年」は何かを成したり、極めたりするのに必要な期間を表していることが多い。とりわけよく使われるのが、職業や商売、芸事、武道などの分野に関わることわざだ。時田氏が一例として挙げたのは「握り方三年」。空手の修行に関する言葉だという。
「空手家の大山倍達の教えですから、古いものではありません。こぶしの握り方は、空手道の基本中の基本。それを身につけるのに3年かかるというわけです。あくまでも私の解釈ですが、この3年という節目には、単に期間が長いというだけでない、それ以上の意味や想いが込められている気がしてなりません。ただ辛抱すればいいのではなく、基礎を会得するために自分の全力をいかに注ぎ込むか―― 。いわば3年が勝負だと。そういった覚悟みたいなものを問うのが『握り方三年』の真意なのではないかと、私は思うのです」
古いことわざで、ひたすら我慢や忍耐を強いる「石の上にも三年」の3年とは、同じ3年でも意味合いが異なるというのが時田氏の見解だ。