OPINION 1 瞬間瞬間を振り返り、考える―― 「リフレクション inアクション」をOJTに組み込むには
OJT、現場の学びを通して、自ら主体的に考え行動できる人を育てるには、経験学習が不可欠である。では、OJTに経験学習を組み込むとはどういうことなのか。人が経験を振り返り、学ぶ際にポイントとなることとは。また、育て上手はどう考えさせているのか――。経験学習研究の第一人者である松尾睦教授に聞いた。
仕事中の振り返りが成長を促す
──OJTは「経験から学ぶ力」を育てる格好の機会だと思います。その学びを活かすためのポイントとは。
松尾
人が経験から学ぶプロセスについては、組織行動学者のデービッド・コルブが「経験学習サイクル」としてモデル化しています(図1)。ある経験をしたら、その内容について「本当にこれでいいのか」「もっといいやり方はないか」などと内省し、そこから得た気づきや教訓を次のアクションに活かす。この経験学習サイクルを回し続けることで、人は成長していきます。ところが同じ経験をしても、成長する人としない人がいますよね。経験からより多くを学ぶためには、「挑戦的な目標に取り組むこと」「自らの仕事ぶりを振り返ること」「仕事に意義ややりがいを感じている状態」がとても重要で、私はこの3つの要素を「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」というワードで表しています(図2)。
──経験学習の考え方をOJTに組み込み、自ら考える人を育てるには何が重要になるでしょうか。
松尾
組織学習の研究で知られるドナルド・ショーンによると、「リフレクション(振り返り)」は、仕事中に振り返る「リフレクション in アクション」と、仕事の後に振り返る「リフレクション on アクション」の2つに分類されます。それに照らせば、「On the Job THINKING」というのは、「リフレクション in アクション」に相当すると考えられます。仕事の後の振り返りも重要ですが、仕事の最中の振り返りはさらに大切。何も考えずに惰性で仕事をしていたら、後で一生懸命に日報をつけたところで、得られる学びは限られます。これは神戸大学大学院の高橋潔教授(経営学研究科)から伺った話ですが、サッカーの世界に興味深い例があります。オランダの国内リーグは飛び抜けてレベルが高いわけではないのに、世界で活躍する選手をたくさん輩出しているんですね。実は指導法に特徴があって、練習試合中に30 秒から1分程度の短いミーティングを頻繁に挟むんです。監督が笛を吹いて試合を止め、「今、あのパスを出したのはなぜか」と問い、選手は自分の考えを言う。それに対して監督がアドバイスを与え、「なるほど。次はそうします」と選手が納得したところですぐに試合を再開。次に何かあれば、また集まって対話する。これって、まさに「リフレクション in アクション」ですよね。こうやって考えながらアクションすることは、スポーツに限らず仕事でも、パフォーマンスを上げるうえで極めて重要です。