巻頭インタビュー 私の人材教育論 “粒ぞろいより粒違い”教育より「発育」
変貌を続ける広告業界にあって、しなやかに業容を広げてゆく博報堂。
2003年の大広、読売広告社との経営統合以降も、インターネット系広告会社を子会社化するなど、統合マーケティングや海外市場に目を向けた戦略をとってきている。
そうした中、多くの企業にとって、多様性への対応は大きな課題だが、同社はかねてより「粒ぞろいより粒違い」と謳う。
一人ひとりのクリエイティビティを磨き上げる、博報堂流の「発育術」とは。
一人ひとりの“粒”を際立たせる現場体験
──「博報堂マン」という言い方をあまりお聞きしません。個性を大事にされている社風の表れでしょうか。
戸田
人材育成の方針として、博報堂が昔から大切にしている言葉があります。それは、「粒ぞろいより粒違い」という言葉です。
広告ビジネスでは、人を通して商品やサービスが提供されます。人と商品が一体の、いわば「人が商品」と言ってよいビジネスです。博報堂は人が資産で、一人ひとりの違った個性や、その組み合わせが最大の成果を上げます。したがって、金太郎飴のような一律な人材は不要です。理想は、一人ひとりが自分らしく生き生きと輝いていて、粒立っているような状態。こうした多様な個性が集まりチームを組めば、新しい価値が生まれてきます。最近、重視されている「ダイバーシティ」も、平たく言えば“粒違い”ということではないでしょうか。
粒違いのつくり方ですか?
まず、風土です。新人の時から、会議に出て発言しないのなら、会議に出なくていい、と鍛えられます。「自分はどう考えるのか」「自分自身は何をしたいのか」という強い思いを持てと促されます。
次に、制度です。例えば、「多段階キャリア育成制度」があります。入社4年目と7年目の社員を対象に、計画的に異動を行う仕組みです。20代のうちに3つの異なる領域の仕事をします。何と言っても現場の育成力が大きいですね。いろいろな現場で揉まれているうちに、粒が磨かれていくんです。
当社はいろいろな業界のお客様とお付き合いしていますが、特に最近は、宣伝部門ばかりがクライアントというわけではありません。多様な企業の多様な部門が当社社員たちの現場になる。もちろん、現場によってニーズも違えば、提供するサービスも違います。そうしたさまざまな現場で働かせていただくうちに、自分なりのキャリアが積まれていき、能力や個性も伸びていくのだと思います。
──クライアント先で多様なプロと出会う……組織で塩漬けになることがないのですね。
戸田
そもそも広告の世界は職種が多く、粒違いが生まれやすい土壌でもあるんですよ。昔から、営業、制作、マーケティングという異なった職種の人材がチームを組んで働くのが常で、「三位一体」などと言われていました。
ただし、職種が違うと意見が合わないことも多い(笑)。僕が入社した1970年代頃など、夜の打ち合わせはいつも喧嘩のような議論の大バトルでしたよ。
いや、喧嘩は大いに結構なんです。言いたいことを言い合って、よいものができるんだから。「お互いのこともわかったし、もういいや」というところまでいくと、改めてみんなの気持ちが1つの目標に向く。そこで異質な個性と個性が共鳴するのです。
今はデジタル系など、さらに職種が増えていますね。地域で言えば、国内もグローバルもある。職種や地域が増えた分、粒の種類も増えています。チームもますます大きくなっていますね。議論は増えますが、従来はあり得なかった結びつきからびっくりするようなアイデアが飛び出してきたり、新しい価値観が誕生したりする。ますます可能性に満ちた時代になると思います。