「管理」はしない。個が躍動する環境をつくることが自分の仕事 鬼木 達氏 川崎フロンターレ 監督
昨年日本中が沸いたサッカーW杯。
その代表選手をはじめ、世界で戦うトップ選手を多く輩出するのが川崎フロンターレだ。
チームを率いるのは今期7年目となる鬼木達監督。
地元で愛され、強豪として名を轟かすチームを統べるリーダーシップやチームビルディングについて聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=川崎フロンターレ提供
常に相手を圧倒するサッカーを
―― サッカーW杯では、鬼木監督の“教え子”からも6人の選手がメンバーに選ばれましたね。活躍をどうご覧になりましたか。
鬼木達氏(以下、敬称略)
それはもう、単純にうれしかったですね。別に自分が教えたとか、育てたとか、そんなふうには思っていませんが、彼らがあのような大きな舞台で戦えているのを見て、自分たちといっしょにやって来たことは間違いじゃなかったんだなと。こちらが励まされた気がします。その反面、彼らなら、もっともっとできたんじゃないかという歯痒さもあって、応援しながら、いろいろな思いが湧いてきました。予選も含めて、楽しく見応えのある戦いでしたね。
―― 川崎フロンターレは昨季、最終節で3連覇を逃す悔しいシーズンでした。監督ご自身にも、期するところがあるのでは。
鬼木
僕たちのチームは、見ている人に喜んでもらえるサッカーを目指しています。じゃあ、それはどんなサッカーかというと、「常に相手を圧倒するサッカー」だろうと。その掲げた旗を降ろすつもりはありません。
ただ、自分としては、勝ちへの執念や執着心といったものを、チームに植え付けようとずっとこだわってやってきました。その部分に関していうと、昨季は物足りない。あっさり負けてしまうゲームもありましたからね。そこは、自分のなかの反省点。もっとこういうことをやれたなという思いが強いので、そこはすべて受け止めて、改善できるところは、全部改善したいなと思っています。
変化しないことへの恐れ
―― そうした監督ご自身の課題感や危機感は、チームの皆さんとどのように共有されるのですか。
鬼木
共有する部分もあれば、あえてそうしない部分もあります。そこは僕のフィーリングになってしまいますが、いまこのタイミングで課題を提示しても解決するのは難しいとか、チームがかえって変な方向へ行きかねないという場合は、触れないようにして、自分のなかだけで何とかします。それこそ勝った負けたで、いろいろありますから。チームが勝っているときなら、難しい課題でもみんなで受け止めやすいし、もっとこうしようと建設的な議論もできるけれど、逆に負けているときは、何かを伝えるにしてもシンプルにした方がいい。人のやることなので、そのあたりは状況に応じて、ですね。
―― 鬼木体制7年目を迎えました。過去6年で4度のリーグ制覇というずば抜けた実績ですから、期待感のハードルはいやでも上がります。
鬼木
誰よりも僕自身が、チームに期待しています。それくらいじゃないと、見ている人にもワクワクしてもらえないでしょう。もちろん7年目なので、自分たちのサッカーという意味では、年々積みあがっているところもありますが、毎年選手の入れ替わりがありますし、ライバルだって進化しますからね。そのなかで、僕たちも常に変えるべきところは変えて、アップデートしていかなければいけない。変化を恐れないというより、むしろ変化しない方が怖いですよ。長く指揮を執っていると、チームにどう刺激を入れていくかが一番難しい。選手にもよく言いますが、とにかく楽しんでほしいんです。選手自身が楽しめていないプレーを、 見ている人が楽しめるわけがありません。