人材教育最前線 プロフェッショナル編 仕事は人生のゴールデンタイム 生き生き輝ける支援をしたい
わずか9 人のスタッフで、年間380日もの研修を実施するヤクルト人材開発センター。所長として充実した研修を提供するために日々努力しているのが、松宮淳氏である。企業の財産としての「人財」づくりを目指し、実務に役立ち、スキルアップを実感できる研修をさらに増やしていきたいと意気込みを語る松宮氏は、ヤクルト本社の社員だけでなく、販売会社や関係会社の人材育成に対する想いも強い。その、松宮氏の熱い想いを伺った。
販売会社・関係会社向けの研修体系の確立を目指す
ヤクルトグループ全体の人材育成を行うため、ヤクルトに人材開発センターが設立されたのは2003年だった。人事部が実施していた“本社社員向け研修”と、営業本部に設置されていたヤクルトマネジメントスクールが実施していた“販売会社社員向け研修”を統合したのである。
松宮氏は2006 年4 月、2 代めの人材開発センター所長に就任した。人事部で研修課長を務めていた初代所長は従来の研修プログラムの全面見直しを行い、“人材開発センター研修体系の礎”を構築した。松宮氏の抜擢は、その後、さらに販売会社・関係会社向けの研修体系を確立するためである。というのも松宮氏は、これまで長らく販売会社への支援業務を担当してきていたからである。また、ヤクルトマネジメントスクールの講師としても活躍していた松宮氏は、いわば営業部門出身の教育担当者ということになる。
松宮氏がヤクルトに入社したのは、1977 年だった。オイルショックの影響で景気は低迷、新入社員の採用も厳しい時代だった。「食べものを扱う会社に入社すれば景気の動向に左右されず、安定したビジネスマン生活が過ごせるはず」と思った松宮氏は、食品会社への就職を希望。最初に内定を出してくれたヤクルトに入社を決めた。
当時の事務系総合職の新入社員は、ヤクルト本社に採用されると、まず販売会社に出向することになっていた。松宮氏も名古屋の販売会社に配属された。
「ヤクルトレディによる販売方法の、まさに現場を知るためですよ」と松宮氏は語る。
1963 年、“婦人販売店システム”として導入されたヤクルトレディ(後に男女雇用機会均等法施行により「ヤクルトスタッフ」と呼称変更)による宅配は、各地の販売会社を通じて行われる。現在は、全国に約2700 カ所ある「センター」と呼ばれる店舗を拠点に、約4万4000人ものヤクルトスタッフが活躍している。センターは、ヤクルトスタッフにとって顧客に届ける商品の準備をしたり研修を受ける場所であると同時に、仲間とのコミュニケーションを深め、仕事の活力を養うアットホームな職場である。そして販売会社が、このセンターをとりまとめているというわけだ。
「ヤクルトレディさんがお届けできない事態が生じた場合には、当時は早朝月極のお客様が多かったので4時に起きて彼女らに代わって商品を宅配することも日常茶飯事でした。ヤクルトレディに欠員が生じると、愛飲者の中から感じの良い奥さんをくどいて採用するのも重要な仕事です。さらに一般家庭や事業所の開拓も。新入社員が一人前になるには大変でした」。休むこともままならなかった。
「学生アルバイトならいざ知らず、なぜ大学を卒業してこんなことをしなければならないのか」という思いも当初はあったと、松宮氏は述懐する。「しかし、就職氷河期だったからかな。不思議と辞めたいとは思わなかったですね。どこで働くにしても、こういった苦労はあると思っていました」
辛いことばかりではなかった。
「たぶん、就職して苦労しているだろうご自分のお子さんや弟さんと私がだぶったんじゃないでしょうか。お弁当をつくってくれたり、夕飯に招いてくれたり、ヤクルトレディさんたちが何かと面倒をみてくれましたし、出向先の販売会社の方々の人情も厚かった」
誠意あるクレーム対応が顧客満足度を高める
2年後の1979 年、松宮氏は広報室へと異動になる。自己申告での希望が叶ったのである。
まずは社内報担当者としての勤務だった。月2 回発行のヤクルトグループ機関紙「広報ニュース」の編集や発行、さらに隔月発行のヤクルト本社社内報「ヤクルトライフ」の編集・発行も手がけた。締め切りに追われる毎日で大変だったが、おかげでヤクルトのことは何でも知ることができた。
「もっとも、広く浅くですが……」と言う松宮氏だが、3年後の1982 年より広報イベント担当者として、ヤクルト商品を使った料理教室から健康講演会、健康フィルムライブラリーの企画・運営、独居老人への愛の訪問活動や工場見学の事務局に至るまでさまざまなことを担当したので、ヤクルトについてのすべてに精通することになった。
特筆すべきは、1986 年からお客様相談センターに勤務していた際、クレーム対応の顧客満足度調査を実施したことだ。
「お客様は我々のクレーム対応をどのように評価してくださっているのか、分析する必要があると思ったのです。クレームの電話やお手紙をいただいたお客様は、その後もヤクルトを愛飲してくださっているのだろうか……。そこで上司に提案して、満足度調査をやらせてもらいました」お客様相談センターにそれまで連絡があったお客様の中から住所、氏名が特定できる方を約300 名選び、手づくりのアンケート用紙を送ったのだ。
「500円のテレホンカードを同封して、今後のためにご意見をお聞かせくださいとお願いしたのです。約8割ものお客様が返事をくださいました」