船川淳志の「グローバル」に、もう悩まない! 本音で語るヒトと組織のグローバル対応 第3回 多文化社会で何が本当に求められるのか?
多くの人材開発部門が頭を悩ませる、グローバル人材育成。
グローバル組織のコンサルタントとして活躍してきた船川氏は、「今求められているグローバル化対応は前人未踏の領域」と前置きしたうえで、だからこそ、「我々自身の無知や無力感を持ちながらも前に進めばいいじゃないか」と人材開発担当者への厳しくも愛のあるエールを送る。
「多様性に向き合うこと」の現実
ゴールデンウィーク明け、私はインドネシアのジャカルタで2日間のワークショップを2回行った。依頼元はある日本企業。その企業が買収した現地企業のインドネシア人幹部40名と、日本企業の日本人10名と合わせて、マネジメント研修および日本人とのチームビルディングを行うというものであった。私は過去23年間、日本企業の海外現地法人、日本企業と海外企業のジョイントベンチャー、日本にある外資系企業の現地法人、そして、海外企業とのM&Aで外資系企業になった、あるいはなりつつある日本企業など、さまざまな業界でいろいろな局面を迎えた組織の支援を行ってきた。最近になってようやく多くの企業が話題にし始めているPMI(Post MergerIntegration:買収の後の統合プロセス)についても、経団連(現・日本経団連)の研修で発表を行ったのは2000年の時で、2006年に文庫化された拙著※1にもその詳細を紹介した。90年代の後半、外資系企業が関与するPMI案件をいくつか行ったことからそのレッスンをまとめていた。インドネシアのマネジメント研修は、実はPMIの一環のアクションの1つでもあった。ところが、今回は私にとって最もチャレンジングなセッションとなった。理由はまさにこの連載で書いていることを自分自身で実践し、しかも組織コンサルタントとして、ファシリテーターとしてミッションを果たさなければならなかったからだ。これまでワークショップでインドネシア人と議論をしてきた経験はあるが、場所は日本かシンガポールであり、またポジションが比較的高い管理者たちであった。一般的に職位の高い人ほど英語のレベルも上がる。ところが今回はまず英語のレベルが高くなかった。実はそこはある程度理解していたが、これに加えて2つの課題があった。それは、言語そのものの能力だけではなくコミュニケーションスタイルと、宗教の違いからくる課題だ。
コミュニケーションスタイルの違い
コミュニケーションスタイルの違いについては、1997年米国で出版したTranscultural Management(邦訳『多文化時代のグローバル経営』ピアソンエデュケーション刊)に記しているが、ここでは簡略に紹介しておく。高コンテクストのコミュニケーションと低コンテクストのコミュニケーションスタイルがあるということは、異文化コミュニケーションではよく知られているもので、文化人類学者のエドワード・ホールによって紹介されている。私は、それをもとにコンテンツとコンテクストのモデルを提唱した(図1)。コミュニケーションをとる時の要素として、コンテンツ(情報の内容そのもの=文字情報、数字、データ、ビジュアルの絵など)とコンテクスト(コンテンツ以外=状況、脈絡、雰囲気など)の2つがある。日本語のコミュニケーションは「一を聞いて十を知る」「暗黙の了解」「以心伝心」というように、コンテクストへの依存度が高い、高コンテクストのコミュニケーションスタイルである。一方、英語だけではなく、フィンランド語を除く北欧の言語、ドイツ語は低コンテクストであり、高コンテンツの言語である。