CASE.1 日産自動車 日産流グローバルTMの変遷・方法とは
海外売上比率が85%にのぼるという日産自動車。そのグローバルタレント(人財)マネジメントは、どのような事業戦略・組織戦略のもと、いかなる仕組みで運用されているのか。日産の後継者発掘育成の最高意思決定機関、ノミネーション・アドバイザリー・カウンシル(NAC)に、人財発掘役である初代「キャリアコーチ」として参加し、現在はグローバル人財育成の責任者を務める奈良崎修二氏にうかがった。
日産自動車のグローバルタレント(人財)マネジメントは何をめざしたものなのか。それを知るために、まず同社の置かれている事業環境と、経営戦略を概観したい。
●事業環境と戦略主要市場は新興国へとシフト
1999年に仏ルノー社と資本提携を結び、カルロス・ゴーン氏が経営トップに就任して以降、日産自動車は順調に経営再建を果たしてきた。1999年当時、250万台だった日産の自動車販売台数は、2013年には520万台にまで成長、さらに現在推進中の中期経営計画「日産パワー 88」では2016年までに世界シェア8%獲得(販売台数750万台相当)というチャレンジングな目標を掲げている。そして、この目標を達成するため、次の3点を成長戦略として定めている。1.新興国戦略:中国・インド・ロシア・メキシコ・ブラジル・ASEAN諸国などの新興国市場で事業の拡大を推進する。2.リーダーシップ戦略:EV(電気自動車)などの新技術でのイニシアチブ、リーダーシップを確立する。3.パートナーシップ戦略:ルノー・日産アライアンスを中心としてより促進していく。すでに資本提携を伴うものだけでも、ダイムラー(ドイツ)、アフトワズ(ロシア)、東風(中国)、三菱(日本)など多様なパートナー企業との事業提携を推進。自動車業界の中でも特に積極的にパートナーシップ戦略を進める。世界の自動車業界の勢力図も大きく変化しており、かつてのビッグ3、GM(ゼネラルモーターズ)・フォード・クライスラーは、現在ではトヨタ・VW(フォルクスワーゲン)・GMとなっている。変化の激しい事業環境の中、ルノー・日産アライアンスにとって、このトップ集団に食い込んでいくことが課題となっている。
●グローバル経営組織マトリックス組織で透明性確保
日産は現在、世界各地に車両生産工場、パワートレイン(エンジン等ユニット部品)工場、開発拠点を有している。自動車は、その土地の気候・文化・好みといった要素が大きくかかわってくる商品だ。したがって、いかに現地のニーズに合った自動車を設計・開発し、現地のサプライヤーを活用して生産していくのか、また各事業拠点でそれを可能にする人財の採用・育成・評価をいかに行っていくのかが、グローバルな事業展開のカギとなる。「自動車会社はそもそも、自動車というワンプロダクトで事業を行っています。そして自動車という製品はいわゆる『足の長い商品』──商品企画から製造までに長い時間が必要で、かつ高額商品なので販売にも時間がかかる、という特性があります。したがって自動車会社は伝統的に、商品別の事業部制ではなく、機能別の組織を取ることが多いのです」(奈良崎氏、以下同)しかし機能別の組織では、世界各地域の拠点で、それぞれの市場に適した事業を展開していくという目的にはあまりフィットしない。「そこで日産では、3軸からなるマトリックス組織を取ることにしたのです。3軸とは、研究開発・生産・マーケティング・経理財務などの『機能別組織』、アジア・オセアニア、中国、北米、中南米、欧州、AMI(アフリカ、中東、インド)の『地域別組織』、そして『商品別組織』です。マトリックス組織では例えば、北米の工場責任者は北米地域の長と日本の生産機能の長の両方にレポートすることになります。そして、地域別組織に収益責任を負わせることによって、より大きな権限委譲ができるようになったのです」機能軸による組織のHQ(本部)の多くは日本に所在し、主に組織ガバナンスに責任を負う。「例えば『人事本部』は、1.世界共通で行うべきこと(例:日産人としてグローバルのどの地域の社員であっても知っておいてほしい内容を教育する新入社員研修や、日産のマネジメントとして必要なことを教える新任マネジャー研修など)の策定・計画の取りまとめ、2.各地域の人事部門との連携、ローカルでの取り組みの支援・承認、3.日本リージョンとしての実践、などの役割を持っています」