OPINION 1 総論 タレントマネジメントとは 仕事と社員の見える化でキーポジションを担う人材が育つ
定義のわかりにくいグローバルタレントマネジメント。
その真の狙いは、競争優位の源泉となるキーポジションを担う人材の発掘、育成にある。
では、人事はどう対応すべきなのか。
日本型人事制度とうまく両立するには。
法政大学大学院 石山恒貴教授に聞いた。
キーポジションを戦略的に活用
──「(グローバル)タレントマネジメント」の定義と意義を教えてください。
石山
まず「タレント」とは専門性の高い労働者であり、知識社会における競争優位の源泉ともいうべき人々です。つい最近ASTDから名称を変えたATD(Association for Talent Development)ではタレントマネジメント(以下TM)を、図1のように、4つの切り口から定義しています。ここで注目すべきは3つで、1つはビジネスと直結しているという点、2つめは企業の文化など、企業の独自性に合致する人材に特化している点。3つめは短期と長期、両方の成果を見ていく点です。全般的な人材開発、育成戦略、人材の質を上げるための戦略、といった従来の定義を見直し、より具体化させているのです。つまり、「ビジネスにおける競争優位を高め、同時に企業の独自性を体現する人材を育成する仕組み」がTMなのです。もっと端的に言えば、これは戦略的TMという考え方に基づく定義ですが、「競争優位に直結する“キーポジション”に特化した人材を選定、育成すること」でしょうか。ちなみに図2が、私が訪問した各社で典型的に観察できた「戦略的TM」の具体的なプロセスです。まず大事なことは、競争優位に直結し事業戦略に影響を与えるキーポジションを特定することです。通常、キーポジションの比率というのはごく少数です。
例えば日産自動車では、NAC(ノミネーション・アドバイザリー・カウンシル)という人材発掘のための委員会を設けています。「キャリアコーチ」と呼ばれる社内ヘッドハンターが発掘した候補者について経営幹部が委員会を開催、討議を重ねるというもので、キーポジションを担えると特定された人材はキャリアコーチのもと、綿密な能力開発の計画に沿って育成されていきます(編集部註:詳細は40ページCASE1参照)。
──キーポジションの特定後の戦略的TMのプロセスは。
石山
次に行うのが「人材の棚卸し」なのですが、そのためには2つの準備、「バリュー、またはコンピテンシーの整備・評価」「パフォーマンス管理」が必要です。前者は「企業文化において求められる行動」、後者は「担当職務における職責の達成度」が評価のポイントになります。この2軸による人材の棚卸しをブロック図にすると、わかりやすく見える化できます。代表的なものが2軸を3段階に区分した、GE(ゼネラル・エレクトリック社)の「9ブロック」です。