CASE.2 中央タクシー 明確な理念と仕組み、そして執念―― 「幸せのサービス」を生む人柄と人間関係のつくり方
●究極のおもてなし靴下を買って届ける乗務員
同社のおもてなし人材育成について触れる前に、まず「幸せのサービス」と言われる同社のおもてなしの具体例をいくつか紹介したい。
エピソード1:知人の結婚式に出席するために東京から長野にやってきた家族連れが、同社のタクシーを利用した時のこと。あまりの寒さに、子どもにもっと厚手の靴下をはかせたいと衣料品店を探したが、早朝で店も閉まっていたため、あきらめて式場に向かった。式場に着いてしばらくすると、式場のスタッフが、新品の靴下を持ってきた。家族を式場で降ろした後、衣料品店を見つけた中央タクシーの乗務員が、靴下を買って式場に戻り、届けたのだ。
エピソード2:同社では、長野や新潟から成田や羽田まで行く「空港便」も運行している。ある時、交通渋滞に巻き込まれ、このままでは飛行機の出発時間に間に合わないという状況に。電車で移動したほうが早いと判断した乗務員は、近くの駅でお客を降ろしただけでなく、タクシーを有料駐車場に入れ、自分がガイドとなり、空港まで案内した。
これらは、利用客から感謝の声が寄せられた対応のごく一部で、こうした例は、他にもたくさんある。こうした優れたおもてなしで知られる同社だが、「特にマニュアルがあるわけではありません」と宇都宮恒久会長は語る。「3つの基本サービス──『ドアサービス』(乗務員が降りてドアの開け閉めをする)、『自己紹介』(顧客が乗車した際に乗務員が所属と名前を言う)、『傘サービス』(雨天の乗降時に傘をさしかける)は義務づけていますが、それ以外は『お客様が先、利益は後』という理念に基づいて、乗務員が自分で判断してやっています」(宇都宮氏、以下同)まさに、サービス業の理想の姿だが、一朝一夕に実現できたわけではない。「ここまで来るのに20年かかった」(宇都宮氏)という。
●背景・方法1未経験者を採用し、ほめて伸ばす
宇都宮氏がおもてなしに優れたタクシー会社をつくろうと考えたきっかけは、父親と共に再建に臨んだ長野タクシーでの経験にある。