CASE.1 ヤマト運輸 感動体験を共有 仕事の原点を見つめ直し おもてなしへの内発的な動機づけを高める
今や社会的インフラとなっている宅配便。その元祖がヤマト運輸の「宅急便」だ。1976年の誕生以来、「お客様のために」という信念のもとに次々と新たなサービスを生み出し、国内シェアトップを維持し続け、アジアへも市場を広げている。そのサービスを支えているのは、全国約4,000カ所の拠点で働く約15万人の社員たちだ。全国一律のサービスを提供するこれらの人材は、どのように育成されているのだろうか。
●背景「社訓」を原点に高付加価値サービスを展開
宅配便事業のパイオニアであり、国内トップシェアを誇るヤマト運輸(本社:東京都中央区)の宅急便。1976年のサービス開始以来、顧客ニーズに対応し、さまざまなサービスを生み出してきた。レジャーにおける“手ぶら文化”を生んだ「スキー宅急便」や「ゴルフ宅急便」、冷凍・冷蔵品の個配送を可能にし、日本の食卓を変えたとも言われる「クール宅急便」。また、「時間帯お届けサービス」、配達日時を事前にeメールで知らせる「お届け通知サービス」、荷物の集配を担当するセールスドライバー(SD)と携帯電話で直接連絡が取れる「ドライバーダイレクト」など、受け取る側の利便性を追求したサービスである。これらのサービス自体がおもてなしの仕組みと言えるが、その多くは、顧客と日々接するSD等の現場の声から生まれている。
こうした活動の原点となっているのが、1931年に制定されて以来、継承されてきた「社訓」だ(図)。社訓の重要性について、人事総務部長の大谷友樹氏は次のように語る。「サービスというのは、マニュアル化することができません。お客様のご要望にどうお応えするかは、その時々によって千差万別ですから、社員一人ひとりが自ら判断して自発的に行動する必要があります。その際の判断基準となるのが社訓です。当社の人材育成は、この社訓を15万人の社員一人ひとりに浸透させることに尽きます」
●方法「感動体験」の共有で仕事の原点を見つめ直す
社訓は入社時の研修で最初に学ぶのはもちろんのこと、全国の職場で毎朝唱和されている。さらに社訓の浸透を図るために、2009年からは全社員を対象とした「満足創造研修」を毎年実施している。研修の教材は、社員が業務で感動したエピソードを綴った「感動体験ムービー」だ。
・雪の積もった日。除雪されていない道をかきわけ、独り暮らしのおばあさんへ荷物を届けると、涙を流し感謝してくれた。
・老夫婦に届けた荷物はビデオデッキとテープだった。頼まれて接続して再生してみると、産まれたばかりの赤ちゃんと若夫婦のビデオレター。真心を運んでいると実感した。
・リウマチのお客様の場合は、玄関まで出てくるのが大変なので、家の中までお邪魔するようにしている。ある日、その方から「私が死ぬまで配達をお願い」と言われた。一生頑張ろうと思った。
・トラックの車庫入れの練習で、何度も切り返し、苦労してようやく止められた。すると、職場の全員が並んで拍手をしてくれた。