OPINION 1 本質は何か テクニックではないおもてなしの土台は“教養”
2013年の流行語大賞にも選ばれた「おもてなし」。しかし、そのあるべき姿はよくわからないという人がほとんどだろう。理想的な「おもてなし」とは何か。また、それを行うために何が必要なのか。マーケティングやCSに詳しいコンサルタントの岡本正耿氏に聞いた。
相手の目線に立ったさりげない配慮
── マーケティング、CS(顧客満足)と「おもてなし」の関係を、どう捉えていますか。
岡本
「マーケティング」は、言い換えると「顧客志向」です。顧客がどんなものを求めているかを考えて製品やサービスをつくることを意味します。これに対し近年、商品を販売した後のお客さまとの関係が大事ではないかという発想から、マーケティングの考え方の中でも特に「CS(顧客満足)」が重視されるようになってきたのです。さらに最近は、顧客満足をもっと大きく捉え、顧客が求める価値に重点を置くという観点から、「顧客価値」という言葉が使われるようになりました。特に家電業界で、製品がコモディティー化して価格の下落が進み、経営の立て直しが必要になる中、「顧客価値」が強調されるようになっています。
「顧客価値」の観点で考えると、製品自体=モノの価値よりも“それを使って何をするか”=コト、経験の価値が重視されます。例えば、アップル社が成功しているのは、iPhoneもiPadも単なる通信機械ではなく、人間関係を円滑にするための道具として捉えられているから。つまり、これからは、製品(モノ)ではなく、経験(コト)をデザインするという発想から、「おもてなし」も重要になってくると考えられます。
──その「おもてなし」を提供するうえで土台となる考え方とは。
岡本
「おもてなし」のベースにあるのは、日本人の礼儀に対する考え方です。新渡戸稲造は、著書『武士道』の中で、「炎天下で日傘を持っていない人と一緒にいる時は、日傘を持っている人も傘を閉じるのが日本人としての礼だ」という趣旨のことを述べています。これは、欧米人から見れば理解しがたいことかもしれませんが、相手を慮って自分も傘をささないことが、日本人の考える礼儀の本質なのです。『武士道』ではもう1つ、贈り物をする時の「つまらないものですが」という表現について、「『あなたのような立派な方にはとるに足らないものでしょうが、これは私が差し上げられる最高のものなので受け取っていただきたい』という意味が込められている」ということも述べられています。つまり、相手を敬うために自分を一段下げる、へりくだる行為が日本人の考える礼儀なのです。
ここからわかるのは、礼儀というのは受身ではなく、主体的な行動であるということ。相手に気持ちよくいてもらうために行動するということです。したがって「おもてなし」は、相手に負担を感じさせないものでなければなりません。大仰に「どうですか、いいでしょう」ではなく、「私が勝手にやっているのでお気になさらないでください」という感覚で行うべきです。ですから、もてなす行動には「もしよろしければ」という言葉がつくのです。