巻頭インタビュー 私の人材教育論 異質な仕事や人、本との出会いが、 環境変化を乗り越える人格を磨く
王子グループの持株会社制への移行により、王子ホールディングスの「印刷情報メディアカンパニー」の中核会社として生まれ変わった王子製紙。新聞用紙事業、印刷・出版用紙事業、情報用紙事業を承継し、2012年10月に事業を開始した。国内需要の成熟や少子高齢化、そして電子化の潮流──多くの企業が直面する壁を「人材力」とコストダウン戦略で越え続ける同社。市場環境の変化をバネに、新時代の人材を育てる術を、代表取締役社長 渕上一雄氏に伺った。
厳しい市場環境下でも守り抜くべきもの
――2012年10月、王子ホールディングスの「印刷情報メディアカンパニー」として新たな出発をされました。今、改めて王子製紙としてどんな理念をお持ちですか。
渕上
2013年で創業140年と、長い歴史を持っています。設立は明治6(1873)年。渋沢栄一が設立した抄紙会社が母体です。創業当時、国内には製紙会社がなく、輸入紙しか出回っていませんでした。しかし渋沢は「国民の文化、教育レベルを上げるには書籍や新聞などの印刷物の普及が必要となる。そのためには安価で大量印刷が可能な洋紙を製造すべきだ」と考えたそうです。当社の企業理念「情報を伝える。それ以上の価値を社会へ」にも、その思いが受け継がれています。新聞、出版物、その他の紙媒体における我々の役割は、単に情報を伝えることだけではありません。例えば新聞を広げてみると、一つひとつの記事は、単純に事実だけを綴ったものではありません。丹念な取材を重ね、深い洞察によって分析を加え書かれているのです。そこには書き手の魂がこもっている。だから読み手の心に響くものがあります。「なるほど」とうなる人もいれば、反論したくなる人もいるでしょう。気になるところがあれば目を止め、しばらく思索にふけったりするかもしれません。あるいは、もう一度読み返したり、切り抜いたりするかもしれない。これらは全て、紙に落とし込まれた媒体だからこそできることなのではないでしょうか。一方的に配信されてくるものをひたすら受け取るだけでは、こうはいきません。そう考えると、紙には深く読ませる力、書き手と読み手を結びつける力があることがわかります。
――紙はメディアとして重要な役割を担っている、と。
渕上
文字や写真の伝わり方は、使われている紙によって左右されるものです。当社が製造する新聞用紙は100種類以上。全国の新聞にそれぞれ特別オーダーの新聞用紙を納品していると言っても過言ではありません。その媒体にふさわしい紙というものがあるのです。
このように、時代を経ても紙の持つ役割は非常に重要です。とはいえ、製紙業界の市場環境は、はっきり言って厳しい。人口減少、少子高齢化、そして電子化――国内の新聞用紙の需要は毎年2%ずつ、雑誌などの出版物に使われる洋紙は年5%程度の減少を見せています。緩やかではありますが、減り続けているのは動かしがたい事実です。
――厳しい環境を、どう乗り越えていこうとお考えですか。
渕上
当社では、需要がピークに達した2000年頃から、大胆なコストカット体制に踏み切りました。以来、毎年数十億円単位の経費削減を続けています。2008~11年度にかけて12台の抄紙機を停止し、2012年度にも2台の抄紙機の停止、1台の品種転換を進めるなど、国内生産体制を柔軟に再編成しています。事業の「選択と集中」という観点でいえば、今後も守り育ててゆきたい分野は、やはり新聞用紙です。実は需要が減ってきたとはいえ、新聞用紙の市場は海外参入が非常に少なく、輸入紙が占める比率はほぼゼロに近い。これは、新聞用紙が「決まった時間に、決まった品質のものを、決まった量だけ納品しなければならない」という、ジャストインタイムの宿命を背負っているためです。海外勢との競合がない市場環境は、このご時世、恵まれていると言わねばなりません。