研究報告 派遣人材の効果的活用法を考える 【第2回】 営業アウトソーシングチームの 活用効果と限界(下)

慶應義塾大学ビジネス・スクールの研究論文の第2回目は、正社員とは異なる労働観を持つ営業アウトソーシングチームの派遣人材をどう活用すべきか、活用する企業側、人材派遣会社の両者の視点から分析してみた。
【前回のまとめ】
営業アウトソーシングのチーム組織活動に焦点を当て、人材派遣会社、クライアント企業双方への聞き取り調査からその特性を明らかにしていった。このようなチームは従来の組織論でいう正社員からなる“team ”とは違う特殊性を持っている。営業派遣社員の特徴として①残業を嫌う②低い組織ロイヤルティー③昇進インセンティブは無効④メンバーが頻繁に入れ替わる⑤短期志向、ということがある。その結果、営業派遣社員の貢献は全体目標から割り算された個人目標の範囲での貢献にとどまり、個人志向ゆえチームでの一体感がっくりにくい、クライアント企業と一体化しにくいという問題があることを指摘した。
4 提言
本節では、前回掲載の調査結果を基に、営業アウトソーシングチームの利用とそのマネジメント手法について、人材派遣会社・クライアント企業の双方に向けて提言を行う。
4-1. 人材派遣会社に向けて
前節での考察から、営業アウトソーシングチームの持つ特徴が明らかになった。そこで、人材派遣会社としては、その特徴を考慮に入れたマネジメントを行う必要がある。より正確に言えば、そういうマネジメントをチームに対して行うように、プロジェクトマネジャーを訓練する必要があるということである。
4-1-1. チームのー体感の醸成
まずそもそも論として、組織ロイヤルティーが低くメンバーが頻繁に入れ替わる“Quasi-team (擬似チーム)”なのである。したがって、そのようなチームに対して、外出時間が長く「割り算できる仕事」である営業というミッションを与えることは、これらの条件のすべてがチームの一体感を阻害するということを意味する。そこで、チームの一体感を醸成するための工夫が必要となる。
具体的には、以下の工夫が考えられる。
①スタッフ間コミュニケーションの促進
残業を嫌い、プライベートを重視するためインフォーマルな飲み会にもあまり行かず、外出時間が長い営業職なので顔を合わせる時間も短く、そのうえ打ち解ける前にメンバーが入れ替わってしまう。このような派遣社員間のコミュニケーション不足を補うために、例えばインタビュー結果からチームの一体感の醸成に効果があると考えられるキックオフミーティング(オフィシャルな飲み会・決起大会のようなもの)のような会合を定期的に開催する。
また、SOHO 形式の勤務形態などでは、電子メールや電話を用いたコミュニケーションも有効である。その際には、プロジェクトマネジャーとスタッフの間だけではなく、スタッフ同士でもコミュニケーションが取られているよう注意しなければならない。
②ハイブリッド型インセンティブ報酬の導入
昇進インセンティブが効かないことや短期志向に陥ることから、派遣社員に対してはインセンティブ報酬が、正社員に対してよりも有効に機能する。その際、個人目標の達成度のみならず、チームの全体目標の達成度に基づくインセンティブを組み合わせる、ハイブリッド型報酬制度により、チームの一体感の醸成を図る。