連載 調査データファイル [第28回] 雇用・人事システムの構造改革 キャリア開発の今後③
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雇用・人事システムの構造改革
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かつては十分に機能していた企業主導によるキャリア形成。しかし、倒産や廃業、リストラによる失業・転職の可能性が高まったいま、会社任せのキャリア形成はリスクが高い。にもかかわらず、明確なキャリアプランを持ち自律的にキャリアを形成できる人はまだ少数派。自発的な理由で転職する人が増えているが、実際はキャリア意識が希薄なままであることも明らかになっている。
1. 希薄なキャリア意識
日本企業におけるこれまでのキャリア形成は、圧倒的に企業主導のものであったといえる。ほとんど関連性のない職場への異動や単身赴任、さらには関連企業への出向一転籍まで、人事の辞令一枚で飛ばされるというのが実態である。それにもかかわらず、それほど強い不満や転職といった行動が顕在化しなかっだのは、何といっても持続的な企業成長によるポストの拡大が、昇進と賃金上昇を保障していたからである。
こうした企業成長に連動した会社主導によるキャリア形成は、結果的にいわゆるゼネラリストといわれる人材を数多く育成してきた。しかも、こうしたキャリア形成は、計画的に行われてきたというよりも、企業成長の必要に迫られて行った人材配置であり、いわば成り行き的な色彩の濃いものであった。会社主導による異動と昇進・賃金上昇の保障により、キャリア形成は会社がやってくれるものという考え方が支配的となった。
ところが、こうした会社主導型のキャリア形成がうまく機能したのは1980年代まで。それ以降は持続的な企業成長が難しくなるとともに、倒産・廃業やリストラによる失業・転職の可能性が高まった結果、会社任せのキャリア形成はリスクの高いものとなってきている。さらに、技術革新やビジネスモデルの転換によって、それまでに培ってきた職業能力が、一夜にして陳腐化する危険性も高まってきている。
急激に変化する時代環境に適応するには、会社任せのキャリア形成ではおばつかないことは明らかであり、会社の都合とは一線を画したキャリア観およびキャリア形成が求められている。だが、現実は相変わらずのキャリア観が支配的である。
産業能率大学では平成14 年10 月、社会人4,100 人を対象に「仕事とキャリアアップに関する意識調査」を実施している。図表1は「あなたは仕事を通じた自己のキャリアアップに関する具体的なプランを持っていますか?」という問いに対する回答結果であるが、「漠然と考えている」(41.6%) と「いまは考えていない」(35.2%) で8割近くを占めている。「漠然と考えている」といった回答は、「何も考えていない」に限りなく近いと思われ、「明確なキャリアプランを持っている」(9.5%) を除いた残りの約9割は、キャリア形成など考えていないというのが実態である。