研究報告 派遣人材の効果的活用法を考える [第3回] 「一般事務」派遣社員のモチベーションを いかに向上させるか
研究報告の最終回は、多くの企業で活用が進む一般事務派遣社員について触れる。一般社員と同様、これらの人材が力を発揮するには、モチベーションに十分配慮する必要があることを、調査結果から明らかにしていく。
1 はじめに
近年、日本の労働市場における人材の流動化や雇用形態の多様化が進展している。とりわけ、正社員の代替労働力としての派遣社員の活用が急増している。派遣社員の総数は2002 年3月末時点で約175 万人であり、この5年間で約2倍の成長を見せている。しかし、その急成長の一方で、派遣社員の活用に当たっては、派遣先企業での就業期間の短さやコストパフォーマンスの低さが問題点となっている。
本稿では、派遣社員のモチベーションに焦点を当て、派遣社員を有効活用するための派遣先企業および人材派遣会社の組織マネジメントのあり方を考察する。派遣社員のモチベーションに影響を与える要因は何か。派遣先企業および人材派遣会社のどのようなマネジメントが、派遣社員の派遣先企業での就業継続意欲や派遣先企業への貢献意欲を引き出すのだろうか。
調査は、大手人材派遣会社A社の協力を得て、2002 年9月以降約半年にわたり、面接によるインタビュー調査(25名)と郵送による質問票調査(4,300 名中有効回答数337 名)の2段階で実施された。派遣社員の職種は1999 年12 月の派遣法改正以降、一部の業務を除き原則自由化されているが、今回は現在の派遣社員の大多数を占める「一般事務」職種に焦点を当て調査を実施している。一般事務とは、OA機器操作による書類・資料作成やファイリング等、いわゆる定型的・補助的な業務である。
2 調査結果
(1)派遣先企業のマネジメント要因
派遣社員のモチベーションに影響を与える派遣先企業のマネジメント要因として、「直属の上司や担当者」「同僚」「仕事内容」「オフィス環境」等がある(図表1 )。以下、代表的な要因について説明を加える。
①上司・担当者
「上司・担当者」については、期待役割の明示、情報共有、業務遂行上のサポート、評価とフィードバック、業務指示や課題提示、職場のコミュニケーション促進等の有無が派遣社員のモチベーションに影響を与えている。
例えば、情報共有については、職場の打ち合わせに派遣社員を参加させているか、業務上必要となる社内の書類・通達を派遣社員にも見せているか。業務遂行上のサポートについては、派遣先企業の事業内容や組織体制、就業規則を教えているか、また派遣先企業特有の経理システム・情報システムの使用法を教えているか。評価とフィードバックについては、派遣社員の仕事ぶりや仕事のでき具合いに対して[ ありがとう][ご苦労様]等の感謝やねぎらいの言葉をかけているか、仕事上ミスをした時にきちんと改善点を指摘しているか。職場のコミュニケーション促進については、派遣社員を受け入れた際に職場で紹介しているか、職場の歓送迎会にも派遣社員を誘っているか、といったことがあげられる。なお、職場の派遣社員を「派遣さん」と正社員が呼称することは、派遣社員の個性を無視することであり、モチベーションを下げることになる点を付記しておく。
②同僚
「同僚」については、派遣社員の普段の仕事ぶりを褒めたり、ねぎらいの言葉をかけているか、職場で働くうえでのサポートをしているか等が、派遣社員のモチベーションに影響を与えている。
③仕事内容・勤務時間・勤務地等
「仕事内容・勤務時間等」については、事前の契約内容と実際の仕事内容に相違がないか、実際の仕事で求められるスキルが自分のスキルレペルと合致しているか等が、派遣社員のモチベーションに影響を与えている。
④ オフィス環境
「オフィス環境」については、ロッカー、メールアドレス、パソコン等の業務上必要とされる什器鶻兒が派遣社員に与えられているか、仮に与えられていても正社員と派遣社員との間に差がないか(例えば、正社員には1人ひとりにロッカーが割り当てられているにもかかわらず、派遣社員には1つのロッカーを数名で共同使用させる等) が派遣社員のモチベーションに影響を与えている。