連載 人事制度解体新書 【第8回】 しまむら パート社員に任せ、信用する。 だから自律と生産性、効率性が実現できる
景気に左右されやすい流通業界にあって、“増収増益基調”が崩れず、安定した成長力を誇っている企業がある。「しまむら」がそれだ。徹底した効率化によって、高い生産性を上げているのはよく知られているが、これも独自の仕組みとシステムをつくり上げ、自律的な店舗運営ができているからにほかならない。そして、その店舗の中心を成し、「しまむら」の屋台骨を背負っているのが「M社員」と呼ばれる主婦を中心としたパートタイマーだ。なぜ、彼女たちは高い「成果」を出し続けることができるのか? 人事部部長の久保田政利氏に、「M社員」活用のノウハウを伺った。
なぜ、主婦を活用するのか
変化の激しい現在にあって、他社のモノマネばかりしていては太刀打ちできない。経営戦略に沿った自社なりの「オリジナリティー」を発揮しなくては、とても生産性の向上はあり得ない。ましてや、組織やそこで働く人々を活性化させていくのは難しいだろう。いま、それを実現できている数少ない企業のなかに今回紹介する「しまむら」がある。
最近、期待の星と言われた新興・ベンチャー企業が、デフレ基調が続く厳しい経営環境の影響を受け、失速していくケースが少なくない。それはしにせ企業でも同じ。そんな状況下にあって、しまむらは何と、ここ10 年余りも増収増益基調を続けている。
ちまたでは、その徹底した合理的な仕組み・システムといったものが、それを実現可能にしていると言われており、そのことは決して間違いではない。しかし、それ以上に各人が自律的に問題解決を図っていくという、強固な組織風土が確立していることが、最大の理由のように思う。そして、それを実行せしめているのが「M 社員」と呼ばれるパートタイマーである。
しかも、ほとんどが中高年の主婦。にわかには信じられないことだが、だからこそ、この連載で取り上げる理由があると言える。
そもそも、なぜ、中高年の主婦活用なのか。まず、考えられるのは、人件費コストの問題。あるいは、しまむらの主力商品である「デイリーファッシヨン」の顧客層が、20 ~40 代の女性(主婦)という商品特性があるのかもしれない。しかし、どうもそれだけではないようだ。
「一番のポイントは、きめ細かいサービスができるという接客販売業における“仕事特性”の観点で優秀な人材を求めたら、それが主婦だったということです。さらに、われわれが出店する地域周辺には、そうした優秀な主婦が多いということも見逃せません。しかし何よりも、顧客と同じ目線と生活感覚を持ち、店舗の業務効率や生産性向上といった点を考えたうえでの結果であって、性別や学歴というようなことは一切関係ありませんでした」と、中高年の主婦を活用する同社の趣旨を語ってくれたのが、人事部部長の久保田政利氏である。
当たり前のことだが、主婦だと、家庭と仕事を両立させなければならない。その両立を図るためには、パートタイマーという雇用形態がベストだということに、少なくとも異論はないだろう。
ただし、そのワークスタイルが少し違っている。原則的に、週5囗勤務の2日休みだが、そのうち週3囗は9時45 分から19 時45 分まで勤務する「口ング」と呼ばれる勤務体系であり、残りの週2日は9時45 分から13 時45 分までの勤務を行う「ショート」という構成になっている。これを各自が、自分の都合で組み合わせていく。勤務時間の合計は週31 時間となっており、正社員の40 時間と比べると、時間的なコントロールが利くことと、絶対量に余裕を持たせているのが特徴である。
しかし、だからといって正社員と区別しているわけではない。M社員の処遇についていえば、給与システム(時給か月給か) が異なる以外は、基本的にすべて同じ。決算賞与もM社員には支給される。
ちなみに、M 社員の時給は970 円からスタートする。月収にならすと約13万円、年収ベースだと約180 万円ということで、当然、[社会保険] の対象となる。いわゆるパートタイマー活用でハードルとなっている「103 万円問題」などとは無縁の世界だ(私見だが、この辺りが人件費変動費化の賢い“さじ加減”の目安なのかもしれない)。