WAVE 第一製薬 変革の鍵を握る幹部職の能力開発 最も必要なのは「コーチングスキル」
第一製薬では約3,800名の全社員中800名を占める幹部職社員の強化を図ろうとしている。彼らの能力開発における重点課題は、「人事考課制度の運用力向上」だ。その鍵を握る「コーチングスキル」の位置づけと、研修の実施にクローズアップしてみた。
100匹目のサルをコーチングで生み出す
「100匹目のサルをっくり出す。それが、コーチング研修導入の狙いです」と、第一製薬人事部人材開発グループ課長の近津洋平氏は語る。1100匹目のサル」とは、何だろう?宮崎県幸島に生息するサルの群れのl匹が、ある日、イモを海水で洗って食べるようになった。最初は「コイツ一体、何をしてるんだりと、遠巻きに見ていたほかのサルたちも、やがて「ちょっとやってみるか」とまねし始めた。すると、サルたちは海水で塩昧が付いたイモのおいしさに気づき、イモ洗いは瞬く間に群れ全体に広がっていった。…・この出来事は、日本の野生サル研究を世界に知らしめたと同時に、サルの群れにも大きな変革をもたらした大事件であった。
群れの99匹固までがイモ洗いに気づかなくても、100匹目が始める勇気ある行動は、集団全体に影響を及ぼす。いってみれば、「コーチングスキル」は、第一製薬全体に変革をもたらす“海水でのイモ洗い"になるものとして、大きな期待が寄せられているのだ。
それでは一体、どのような形でコーチングによる変革を生み出そうとしているのだろうか。その仕組みと考え方を見ていくことにしよう。
第一製薬では、2001年に社員の研修体系に対して見直しを行った。これまで「自律型・価値創造型人材の育成」を石刑l多のコンセプ卜としていたが、その考え方を企業のビジョン、ミッション、バリューと関連づけ、社員の能力開発が同社の考える成果主義を具現化するものと位置づけた。
まず一般職社員については、「押しつけの階層別研修を、ほとんどなくしてしまった」と近津氏は語る。逆に“手挙げ式"と呼ばれる「キャリアデザイン研修」を充実し、マネジメント、語学、ロジカルシンキング、ネゴシエーション等、多岐にわたるメニューのなかから、自分に必要だと考えられる研修を、社員自ら選んで受講していく育長にした。
このキャリアデザイン研修を支えるのが、一般職の階層別研修として唯一残された「ステップアップ研修」である。これは、将来の幹部候補社員(C職掌)と、エキスパートを目指す社員(E職掌)に対して行われる。C職掌社員は、入社10年目前後で「主任」に昇進し、初級マネジメントを要求される。この時期に、乙れまでのマネジメント能力を“棚卸し"し、その強みと弱みを認識するのが目的だ。これには、演習や議論を通じてのアセスメントユニットが用意されている。
アセスメントの結米を受けるものとして新たに導入されたのが、「キャリア開発ユニット」である。これは自らの価値観やビジョンを掘り起こし、キャリアビジョンを明確化していくステップだといえる
自らのキャリアビジンと現在の自分とのギャップを認識することで、「キャリアデザイン研修」の選択へ、スムーズにつなげていくのが狙いだ。
エキスハートを目指すE職掌社員に対しては、ビジネスコミュニケーションスキルを磨く研修を実施する。自らの専門性追求と同時に、組織のパイプ役としての役割を認識し、上司と後輩をつなぐ能力を育成・発揮させるのが目的である。
一方、幹部職社員(課長職以上)に対しては、「逆に階層別の必須研修を増やしました」と近澤氏は語る。研修内容は、「評価者研修」「幹部職コーチング研修」「新任幹部職研修」の3頂目からなる。このメニューの特徴は、いずれも部下の育成・評価にかかおる研修であることだ。
「幹部職社員には、チームリーダーとして組織の成果引き出すことが求められています。彼らにとって、部下の能力開発を行い、部下1人ひとりのベクトルを組織目標に収斂させることは、業務目標達成に欠かせない要素です。この観点から見た時、幹部職の評価能力を強化することが、業務遂行上の必須課題として浮かび上がってきました」(近澤氏)