合併に当たって、 人事部は何をすべきか 事前準備の薦め
企業の合併や統合には人事面で困難かつ慎重な作業を伴うことは、前稿で述べた通り。次に、合併前と合併初期の段階で、トップ間および人事部にとって、具体的にどのような対策が必要なのかを、各種事例とチェックリストで確認してみたい。
はじめに
日本では株式の持ち合いにより、株価が下がっても買収危機にさらされないなど、実質的に株主の監視が利かない。また、役員報酬が業績に連動するよう設計されていないため、合併時の統率力はトップ個人の倫理感と使命感に頼らざるを得ないのが実情だ。現状の日本企業はガバナンスの仕組みが不十分なうえに、合併においては総論で触れ九日本的な障害要因が多々ある。特にそのネックは人事政策に関連している。
合併の成功は日本経済の底上げに無関係ではなく、それを導くのは人事部の尽力に負う部分が大きいのではないだろうか。職務等級の擦り合わせや制度新設については、専門家の別稿に譲るとして、本稿では早期対応に絡む対処例と、失敗事例の一部をあげる。
1. 役員人事と事前の対策
A) 外部のコンサルタントに役員人事アセスメントを依頼(日本系事業会社)
ある企業では、被評価者1名に複数以上コンサルタントがつくタイプで役員人事アセスメントを独自に設計してもらった。米国の心理学会関係者によると、心理学系の人事ツールは通常、英米では資格保持者にしか販売・実施が許可されていないが、日本は絶対評価系ツールと相対評価系ツールが混在したものが人事部を対象として無差別に大量販売されているという。
合併を機に、役員人事には英米基準の正式な資格保持者にアセスメントを依頼することを検討してはどうだろうか。また、人事部長主導ではアセスメント実施は役員に却下された例があるため、トップを説得する必要がある。
B) 合併を機にグループ企業全体の統合状況をチェックする内部監査部門を強化(日本系金融機関)
この企業では、内部監査関連の資格取得を推進し、教育費を積極的に投じている。社内で「閑職」と見られがちだった監査役ポストの強化は2001 年の商法改正で対応されているため、法改正に先行した例だ。 GE が内部監査ポストに幹部候補を投入することはあまりにも有名である。
C) マスコミ発表間もないタイミングで、常務取締役クラスと若手を中心とした幹部候補との間で直接面談する時間を設けた。そのうえで統合後組織の目指すべき方向、キーワードをまとめ上げた(日本系金融機関)
2週間程度、9時~17 時と時間を取り、どんな組織になるべきか若手の意見を聞く機会を設けた。役員だけの机上の議論では文言にリアリティが出ない。また、合併事例ではないが、米系投資ファンドに買収された日本系企業に新経営陣が入ったケースでは、日本企業は構造上40 代以降で情報が歪んでいると判断した。各部署から30 代を集めて不満を全部洗い出す会を、役員も保養所に3日間泊り込んで実施。数年で業績が黒字回復している。
D) 危機管理広報を手がけるコンサルティング会社に役員を対象としたIR・メディア対策のインタビュー訓練を依頼(日本系金融機関)
合併時はメディアの注目度が集まるために、取引先に転籍した役員にも記者がアプローチする。その対策として専門の第三者にインタビュー訓練を依頼した。役員1人ひとりに会社の方向性等を問うていくが、微妙な方針差を事前に整理したり、政治的な動きを抑止する副産物効果が大きいという声もある。

