連載 人事制度解体新書 [第10回] 「職系」を廃止、人事制度一本化で、全社員に「成果主義」を適用。 女性の積極的登用も狙う
![連載 人事制度解体新書 [第10回]
「職系」を廃止、人事制度一本化で、全社員に「成果主義」を適用。
女性の積極的登用も狙う](/wp-content/uploads/temp_image/5332/1551451776.png)
グローバルな経済環境下に置かれ、「資産形成・資産運用」面での競争力が強く求められている証券業界。そのようななかにあって、社員1人ひとりが金融のプロフェッショナルとして活躍の「場」を広げることが、企業成長の原動力だと日興コーディアル証券は考えている。こうした経営を実現するために実績主義を徹底し、2003年4月にはついに「総合系列・一般系列」という職系区分をも廃止してしまった。ただ、ここに至るまでにはさまざまな「成果主義」人事制度の試行錯誤があったという。この間、人事処遇制度改革の任に当たっていた人事部第一人事課長・猪瀬真哉氏に、話を伺った。
なぜ、いま「職系」廃止なのか
日興コーディアル証券では2003 年4月に、1999年から導入してきた「成果主義」人事処遇システムをまさに集大成するべく施策を発表した。何とこれまでの総合系列、一般系列の「職系」をすべて廃止し、総称として「プロフェッショナル社員」に統一、階層をクラスm、クラスn、クラスIだけとするきわめてシンプルな人事制度としたのである。もちろん、シンプルにしたのには理由がある。
「何より、職系という概念を払拭したかったからです。職系がなくなることで、人材の流動化が促進されていき、男女の差や年齢の差を越えて、1人ひとりが個性を発揮していく。真の意味での金融のプロフェッショナルというものを、皆が目指していける組織の実現をと考えました」と、新体系への移行についての“想い” を語ってくれたのが人事部第一人事課長・猪瀬真哉氏である(図表1 )。
続いて猪瀬氏は、今回の人事制度改定の趣旨として、大きく以下の3つのポイントがあると説明してくれた。

(1)成果主義の浸透:成果を上げた社員に厚く報いる公正な報酬制度にする
グローバル化か進展するなかで、個人の能力を最大限に発揮する時代にふさわしい職場環境を整備する必要があった。成果主義は、その最たる考え方であろう。もちろんこれまでも、従来の一般職層で成果を上げた人に報いる仕組みは取り入れていたものの、成果主義をより徹底するには、どうしても「職系」が強固なハードルとして、意識面も含め障害となっていた。一般職、総合職という「職系」の垣根をなくして、人の流れ(プロモーション) を一本化する必要性に強く迫られていたのである。さらに、一般職層側からも年功序列をなくして欲しいというフォローウインドがあったことも、成果主義浸透への後押しとなった。
(2)人材育成の強化:成果を上げようと努力する社員に対する支援を行う
当然のことであるが、成果主義を実現するには、何よりも「個」の能力・スキルを向上させる必要がある。そのためには、すべての社員が同一のカリキュラムを受けられる仕組みが欠かせない。
しかし、いままでは総合職のみであるとか、階層別の教育が主流であった。それを、[必修型研修] と「選択型研修」とに分け、自分か受けたいと思うカリキュラムを自らが選択し、受講していくという自主性をより重んじるスタイルへと、一気に方向転換した。なかでも、「日興ビジネスカレッジ」はあえて自己負担分を設け有料とした。その分、キャリアアップ研修の“屋台骨”を背負うものとして、社内での期待は大きい(図表2)。

(3)「個」の尊重:積極果敢にチャレンジできる機会が公平・均等に得られるようにする
それと同時に、成果主義を担保するためには、各自における“裁量”というものが不可欠である。機会を公平かつ均等に与えるということは、成果主義には欠かせない条件なのだ。例えば、人事異動は年に2回行われているが、その度に公募を行い、皆にあまねくチャンスを与えていくこととした。あるいは、営業専門社員であるFA 社員( ファイナンシャル・アドバイザー)への転換、さらにクラス変更においては、会社からのオファーに対して自らの意思でクラスT、H、mの変更を決めていくといったように、「個」を尊重し、多様な「個性」の集まりを強みとする“たくましい企業文化”を創造することに、重点を置いた。
「職系を廃止した狙いの1つに、女性のさらなる活躍があります。と言うのも、これまで一般職層を担ってきた女性社員に、会社として期待するものが大きいからです。ポテンシャルは高かっだのに、これまでは一般職という意識のなかでキャリアアップ、ステップアップにちゅうちょしていた女性が少なからずいましたからね。年齢や性別にかかわらず、やる気と能力のある社員が登用されていく制度を実現させたことで、今回の改正によって、クラスI からクラスH、mへと移行した女性社員が少なくありません。また、各クラスで求められる具体的な職務を示して、キャリアアップのイメージをはつきりと示しました。さらに、女性による女性のさらなる活躍を目指した検討チームを発足させるなど、自律的に女性が活躍できるような仕組みを、積極的に設けていきたいと考えています」(猪瀬氏)
「成果主義」実現への道程

読者のなかには2000 年4月、同社がまだ日興證券だった時代に、管理者以外の層への[成果主義]導入を発表しだときの衝撃を覚えている人も少なくないのではないか。それこそ「新入社員から管理職直前まで、総合職の社員の基本給を一律30 万円とする。格差は賞与で」といった文字が、新聞紙面を大きく飾ったものだ。とりわけ、適用対象が非管理職で月給が一律、そして賞与の変動幅がきわめて大きいということが、これまでの一般的な日本企業の賃金制度と対極にある成果主義の方向性を示す、まさに「事件」たったことを覚えている。考えてみて欲しい。成果主義の“本場”アメリカでも、その適用者は主に管理職なのだから。確かに月例給与は高額ではあるが、実際問題として、非管理職層で賞与の変動幅を管理職並みに大きくするのは容易なことではないだろうと推察される。
今回の制度改正は、一連の成果主義実現の「最終楽章」としての位置づけと考えられる。その意味でも、ここまでの同社における人事制度改定の推移を以下に整理してみた。
(1) 1999 年1月/管理者クラスへの「成果主義」導入
・ベース年俸:600 万円
・職務年俸:O ~700 万円