連載 事例・ロールプレイングで読む セルフ・アサーション・トレーニング [第2回] 「不安」感情の問題解決
初めての人や経験に接する時、あるいは先々自分にとって予測もつかない状況に「不安」を感じる人は多い。この問題を解決するポイントは、自分の不安感情に気づき、その感情とうまく向き合って前向きに対処していくこと。今回は不安に際した時のアサーティブ行動を、ロールプレイングを通じて学んでいきたい。
はじめに
最近不安をテーマにして大変注目されている書籍があります。五木寛之氏の『不安の力』です。著者は、エピローグでこう結んでいます。「 …… あえて言えば、不安は希望の土台です。不安を感じることが、人間が人間としてあることの出発点なのです。ぼくは不安を肯定し、〈不安の力〉というものを認めたいと思うのです」。本来、不安を感じることは、きわめて人間らしいことであり、自己嫌悪に追い込まなくてもよいという五木氏の論旨に人々は共感します。それにしてもまず、「不安」感情と上手に付き合ううえで大事なのは、この感情を理解することです。今回はこの点を明らかにしようと思います。
「不安」感情の本質
論理療法の創始者であるアルバート・エリスは、子供のころから「スビーチ不安] と「社会不安」という2種類の不安を抱えていました。「スピーチ不安」は、場数を踏むことで克服しました。一方、「社会不安」は、二ユーヨークのブロンクス植物公園で100 名の女性に声を掛けた結果、不安をつくっていたのは自分であるということに気づくことで解消しました。
アーノルド・ラザラスによると、不安は「漠然とした、いまだに不確かな脅威を経験する時の感情である」と定義されています。精神分析の立場では、「分離不安」を不安感情の基として捉えています。この不安は、子供が母親などの愛着対象から分離する際に子供に生じる不安であると説明しています。発達心理学によれば、その最初の徴候は生後8ヵ月前後に人見知りとして出現すると述べられています。精神分析の立場を踏襲したM.S. マラーは、「分離一個体化の理論」で「人間が健康に成長するには、愛着の対象に依存するのではなく、愛着と分離とを繰り返すことが必要である」と説いています。この立場の説明は、母子関係が成人の性格を決定づけるという精神分析の考えを反映したものです。
ところが、アルバート・エリスは、幼いころの両親の離婚で母親に引き取られ、養育放棄に遭う家庭環境でありながら90 歳の長寿を迎え、いまなお世界のカウンセリング界に影響を及ばし続けています。論理療法では、過去の環境や母子関係がどうであれ、本人白身の考え方が変わることにより人生は前向きに変化するというA - B - C -D -E理論を明確に提示しました。
人生に波風が立った時の不安をどう乗り越えたらよいのでしょうか。論理療法は、2種類の不安があるとして、これを識別しています。第1は「自我不安(Ego Anxiety) 」といい、自尊心が脅かされる時に生じる不安です。自我不安を感じた時は、無条件の自己受容(Unconditional Self Acceptance : USA)をすることです。例えば[ 自分は、いつでもトップでなくてはいけない。そうでないと人生の落伍者になる]「私は、この試験に何か何でも合格せねばならない。もし失敗すると人生は破滅だ」。これらは、自分か不完全な存在であることを許す勇気を持つことにより克服できる不安です。
第2 は、「安楽( 楽しさ) への不安①iscomfort Anxiety) 」といい、安楽がなくなることへの脅威から生じる不安です。また、不安になることへの不安ともいわれます。例えば「子供は、親の期待した通りに育たなくてはいけない。そうしないと、親として世間に顔向けできないし駄目な人間である」。この背景にイラショナルビリーフがあり、不安が生まれているのです。したがって、イラショナルビリーフをラシヨナルビリーフに変えることで不安は軽減されるのです。
さらに、不安というネガティブな感情には、健康な不安と不健康な不安があるのです。例えば、本邦初公開の話を講演でする時には不安があって当たり前ですが、その不安は本人を支えるものなのです。五木氏が『不安の力』を通して伝えている不安がこれです。ところが、人前でスピーチをする際にいつも不安が襲い、あかってしまう場合は、不健康な不安となります。前者はラショナルビリーフが背景にあり、後者はイラショナルビリーフが禍しているのです。
したがって、「不安を味方につける」ことができると前向きに人生を生きられるのです。これが論理療法で教える「不安」との付き合い方です。
ロールプレイング事例
◆主役 A :女性、31 歳、会社員。
◆課題 Aさんは、人に頼られると断ることができず、忙しい時でも引き受けてしまうことが多い。最近、後輩の1 人が社内でいじめを発見するたび、Aさんにどうにかしてほしいと頼みに来る。その後輩はAさんを頼りにして気を遣うー面もあり、仕事の面では育てていきたい存在であるため、その関係性を含めたかかわりをしたいと望む。しかし、後輩が涙ながらに訴えたことからAさんがその意思を実行したことに「はめられた」と感じた出来事があり、コントロールされているのではないかという怖さを感じるようになった。そこで課題として、この「怖い」という気持ちを伝えたいとするが、ロールプレイのなかで怖いと思っていた感情が実は「不安」の感情であることに気づき、最終的にはこの感情を扱うこととなる。
◆目標 「不安」という感情を表現する。
◆相手役 B :女性、Aを頼る後輩。
◆ファシリデーター T
◆観察者 C ・D ・E ・F
◆場面 A が忙しく仕事をしているデスクにB がやって来て話しかける。
●普段の仕方で行動するロールプレイング
T それでは、相手役と観察者の方はAさんへの肯定的フィードバックをすることを頭に入れておいて下さい。では、スタート。
B ねえねえ、A さん。ちよつと話があるんだけど。
A ちよつとごめんね、いま時間がないから、後から話してね。
B でも、すごく大事な話なの。ちよつとだけでいいから。
A うん、いいよ。じゃあ…… 。
B さっき、給湯室に行ったら、男の人が○○ 子さんのことをすごくセクハラしてるの。私、そういうのを見ると許せなし口
どう思う?
A うーん。それはまた後から聞くから。
B でも、私たち女性として許せないの。おかしいと思うでしょう。
A うん、そうだよね。
B でも、私から言うわけにいかないし。見ているとかわいそうで、私の力で助けてあげられないし。もうAさんしか助けてくれる人がいないんですよ。
A う一ん、それなら私、ちょっと、行ってくるわ(苦笑)。
T はい、そこまでです。先に日さん、相手役としての感想はどうですか。
B うまく乗せることができた感じです。
T Aさんの感想は。怖さは感じた?
A いまはあまり感じなかったです。断ろうと思ったら断れたですね。そんなに悪意がないように見えたので余計に感じなかったのかもしれないのですけれども。
●肯定的フィードバック
T 観察者の方は、Aさんに肯定的フィードバックをして下さい。
C 相談されて真剣になって、自分が優先しなければいけない仕事があっでも見捨てずに聞くという気持ちがすごく良かったでず。
D とても後輩の面倒見がいい天だなと思いました。忙しいのに話を聞いてしまう。思いやりを感じました。
T Aさん、いまいろいろな人からメッセージを聞いて、どんな感想を持ちましたか。
A 思いやりがあるとは自分では思っていなかったものですから、ちょっと意外に感じました。

