連載 調査データファイル [第32回] 雇用・人事システムの構造改革 長時間労働問題を考える③
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雇用・人事システムの構造改革
長時間労働問題を考える③](/wp-content/uploads/temp_image/5331/1551375625.png)
「村社会」の論理が色濃く残る日本の企業社会では、対面会話を過剰なまでに重視する傾向にある。ムダな会議、出張等が多いのもそのためで、仕事の効率を低下させ長時間労働を招く一因となっている。蔓延する長時間労働を改善し、労働時間を柔軟に管理する手立てとして、変形労働時間制やフレックスタイム制度の導入が考えられるが、全体の傾向として、導入が進んでいるとはいえない状況にある。
1. 過剰な対面会話重視
相手の顔を見て話をするのは細かなニユアンスがわかることから、ビジネスに隕らず情報伝達の手段としては、最も重要かつ信頼でき、安心の置けるものである。しかしながら、「村社会」の論理が色濃く残る囗本の企業社会においては、情報を伝達する手段としてフェース・ツー・フェースの対面会話が、必要以上に重視されている。会議がやたら多い、来訪者や面会者がやたら多いといったことは、「顔を見ないと安心できない」といった心理の人が、非常に多いことを物語っている。
過度なまでに対面会話を重視する社会では、会議や面会、出張などの移動に、多大な労力とコストをかけることになる。対面会話重視の背景には、物事をきちっと詰めてから協議するというのではなく、とにかく皆が集まって知恵を出し合い、走りながら部分修正を加え、全体の合意を形成していくという習慣が、強固に定着していることがある。こうしたことは、日常的な仕事の効率を低下させ、休暇を取りにくいといった状況をつくり出し、結果的に長時間労働を招いてしまう。
こうした非効率的な働き方は、ホワイトカラーの職場に典型的に見られる。生産効率をぎりぎりにまで高めて競争力を維持している多くの生産現場の場合、生産の立ち上がりに失敗すれば、致命的なダメージを被ることになる。そのため、操業後の改善提案も重要であるが、それよりも本格生産前にどの程度問題を解決し、一気に量産化と稼働率の向上を達成するかが勝負の分かれ目となる。これに対して、非定型的な仕事が多いホワイトカラーの職場では、仕事の裁量度が大きいこともあって、時間当たりの効率を計りにくいという特徴を抱えている。
さらに、態度評価を重視する職場では、残業時間の多さが、人事評価において「一生懸命やっている」とプラスに評価される傾向が強い。また、労働時間と賃金が直結している職場では、働く側も残業代を稼ぐというインセンティブが働くため、効率的に働いて早く帰るよりも、そこそこ働いて残業もそこそこするといった行動を取る傾向が強まる。「5時から男」の出現である。
こうした対面会話の重視、コンセプトを明確にしないまま走り出してしまう仕事のやり方、労働時間の長さが評価や賃金にプラスに作用する人事制度など、さまざまな仕事の慣習が複合的に絡み合って、長時間労働の世界を出現させている。長時間労働の世界から脱出するには、仕事のやり方を変え、労働時間管理や人事評価のやり方を変える必要がある。