連載 勝ち続けるための企業遺伝子「コーポレートゲノム」 [ 第3回] 事例「大企業病」組織からの脱皮 外部環境の変化に対する対応力が 組織的に弱いA 社の場合
![連載 勝ち続けるための企業遺伝子「コーポレートゲノム」 [ 第3回]
事例「大企業病」組織からの脱皮
外部環境の変化に対する対応力が
組織的に弱いA 社の場合](/wp-content/uploads/temp_image/5331/1551373748.png)
製造業のA社では、1990 年代に入ってから長期の業績低迷にあえいでいる。トップの強い危機感からコーポレートゲソム診断を実施したところ、結果は「大企業病」組織と診断された。結果を踏まえ、組織活性度の向上を棚上げしてでも、戦略活性度の向上を優先させることで、「大企業病」組織からの脱皮を図ることにしたA社。「当事者意識の弱い社員の集団」であったため、まずは変革の必要性を浸透させることから着手した。
1. はじめに
今回から3回連続で「大企業病」 、「仲良しクラブ」、「金太郎アメ」組織についての事例を紹介する。実際の企業の診断をケースとして取り上げることで、コーポレートゲノム診断の実例と処方箋の考え方について紹介したい。
今回紹介するのは「大企業病」と診断された例。ここで紹介される事例は、コンサルティングの現場で実在したケースを基に作成している。だが、職業上の守秘義務から、複数のケースを断片的につなぎ合わせるなどして表現したものになっていることをご理解頂きたい。
2. 「大企業病」の診断ケース
①企業プロフィール
1990 年代には外況の変化に伴い、多くの企業業績が低迷した。製造業を営むA社はその典型的な企業の一例である。A社はそれまで順調に成長してきたが、90 年代に入り、景気の長期低迷と時期を同じくして、業績は低迷気味となった。だが、劇的に悪化することはなく、事業を取り巻く外部環境の悪化という一言で片付けられがちだった。
A社の顧客に当たる某産業界の景況を見渡してみると、明らかに需要は頭打ちとなり、成長期から成熟期に入ろうとしていた。これまでA社は、顧客企業の業界の成長とともに成長してきたため、どちらかというと顧客の言う通りにしているだけで、ある程度の成長と利益が確保されていた。海外進出も早い時期から推進し、拠点数も数多くあったが、それらも顧客企業からの要請に応えて拠点を拡大したといった色彩が強く、自らの戦略に基づいて推進したというわけではなかった。
この件に代表されるように、それまでは戦略的な判断を自らリスクをもって下さなくとも外部からの要請に応えることで、ある程度の成長が確保されていた。
分析結果の読み込みは、人間ドックの各種項目、マーカーの結果から根本原因を探る作業にも似ている。例えば、血圧値が高い場合、検査前の週のアルコール摂取量の影響なのか、それとも何らかの慢哇的な疾病の影響なのか、というように、何が原因でこのような結果なのかをていねいに読み解いてゆくのである。
診断は、まず総合的な結果を見ながら、詳細のアイテム別の分析に入ってゆく。アイテムごとの数字は当社が持つデータペース(同じアンケート調査を上場企業120 社約5万人に実施したものから構成)との比較により算出した偏差値である。この数字の絶対水準を見ながら、かつ、各アイテム間での相対的な位置づけ(高く出ているもの、低く出ているもの) を勘案して行う。
これらデータの読み込みから得られるコーポレートゲノムの診断結果より推察される問題仮説をまず提示し、それを基に検証のヒアリングや過去からの戦略や計画、各種施策のレビューを行い読み解いてゆく。そうすることで問題の所在、そして課題を明確にすることができる。また、これらの作業を、各企業のトップや窓口となる人事・経営企画のスタッフ等と一緒に議論することで代替することもある。いずれにせよ、組織のコーポレートゲノムの現状を踏まえて、その背景や原因をきちんと検証することがなければ適切な打ち手は出てこない。
②コーポレートカルテ

トップの強い危機感から診断に至ったが、「大企業病」と診断され、結果は以下のように表れた。その特徴は一言で言うと当事者意識の弱い社員の集団であり、風通しの良さ、居心地のよさを醸し出す、仲良しクラブ的な組織でもあった。
戦略活け度はかなり低いが、個人活性度はそれに比べるとやや高い値を示していた。また、診断の結果は図表1のように、戦略活性度の「挑戦行動」、「俊敏志向」、「責任遂行」、「明確志向」といったアイテムが特に低かった。すなわち、自ら外部環境の変化に対して能動的に取り組み、対処する組織風土とは程遠い。何事を行うにもスピード感に乏しく、やったことはやりっ放し、組織全体としても掲げて実行した戦略やプランの検証が行われ次に生かされることが少ない、そのような組織であった。

このような状況に至った背景には「明確志向」の低さに表れているように、役割や権限の不明確さ、あいまいさがあると推察された(図表2)。何をやれば評価されて、何か評価されないのかといったところが、管理職クラスから末端の社員までピンときていなかったのである。
