短期連載 産業・組織心理学的アプローチからみた 日本企業の人事戦略 第3 回 最終回 変化する日本の人事戦略と 人事におけるチェンジマネジメント
最終回の今回は、人事戦略のチェンジマネジメントに必要な視点について言及していきたい。ここでいう必要な視点とは、「社員の心理的契約」「人事施策間での内部フィット」「公平感確立のための3つのルート」の3点。人事戦略の変化を成功に導かなくてはならない人事部門にとって、こうした点は考慮すべき重要なことといえる。
これまでの2回では人事戦略を含めた経営戦略には経済環境と同様に制度環境が影響を及ぼし、組織にとってこの2つのタイプの環境に適応することが存続・発展に不可欠であること、さらに日本における制度環境と人事戦略との具体的な関係から日本型人事戦略の特色を述べてきた。シリーズ最終回の今回は、いま日本企業で進行している人事戦略の変化に焦点を当てる。
まず社会制度、ビジネスシステムの変化から人事戦略の変化を議論し、次いで変化する人事戦略を効果的にマネジメントするために考慮すべきいくつかの視点を紹介する。
変化する社会制度、ビジネスシステム
前回( 2月号)、資金調達システム、政府の役割、教育・職業訓練システムとスキル認定制度の重要度、株主構造、コーポレートガバナンス構造という5つの日本の社会制度、ビジネスシステムの特色を取り上げ、これらの特色が日本の人事戦略の特色と密接な関係を持っていることを紹介した。だが現在、日本ではこの5つの社会制度、ビジネスシステムの要因のなかでも、特に資金調達システム、株主構造、コーポレートガバナンスシステムという3つの分野で変化が起こっており、これが現在、日本企業における人事戦略の変化の原因の1つと考えられる(図表)。そこで、以下に3つの要因に関する近年の変化の概要を見ていく。
(1)資金調達システム
間接金融として特色づけられる日本の資金調達システムの下では、企業は長期的な視点を持つことが許される。だが現在、日本では直接金融の割合を高める方向で資金調達システムが徐々に変化しつつある、あるいは変化の兆しが見られる。
主な理由としては、1つは80 年代中盤以降、直接金融に対する規制が緩和されていることがあげられる。もう1つの理由としては、バブル崩壊後に多くの企業が財務的な苦境に陥った大きな要因が、銀行からの借り入れによって投資を行ったことにあり、いったん投資が回収できなくなった場合には、銀行からの借り入れは非常に危険であるということを、多くの企業が認識するようになったことがあげられる。
さらに政府も、従来の間接金融中心から、間接金融と直接金融をミックスさせたものに変えようとしている。政府が資金調達システムを変化させようとしている理由の1つは、間接金融はキャッチアップ型の経済に適したものであるが、フロントランナー経済には適さないことがあげられる。フロントランナー経済では不確実性が増すため、資金調達システムはリスクを発見し、管理し、分散させる機能を持つ必要がある。こういった機能を持つ資金調達システムは、効果的な価格メカニズムを持ち、スムーズな資金の配分を可能にする市場メカニズムを中心としだものであることが条件となる。そのためには、直接金融の比率を高めることが有効となる、というものである。
(2)株主構造
日本の大企業の株主構造は、ビジネスの関係を有する少数の安定株主、持ち合い株主に特色づけられる。この夕イプの株主構造は長期的な雇用、社員への積極的な投資、年功制など日本型人事戦略をサポートするものであった。
だがバブル崩壊以降、株価の減少に伴い安定株主、持ち合い株主の株式保有比率は減少する傾向にある。さらに近年は、会計基準の変化や銀行に対して自己資本以上に持ち合い株式を保有することを禁じる新しい法律の施行、といった法律・規制の面からも株主構造の変化を促進する要因が現れている。
(3)コーポレートガバナンス構造
日本のコーポレートガバナンス構造は、安定、持ち合いの大株主などビジネスの関係を有する少数の人たちによつてコントロールされるインサイダーシステムとして特色づけられる。だが資金調達システム、株主構造という日本型コーポレートガバナンス構造を支えてきた要因が変化するにつれて、このインサイダー型のコーポレートガバナンス構造にも変化が生じている。すなわち、徐々に直接ビジネスの関係を持だない小株主など数多くの外部関係者たちによってコントロールされるというアウトサイダーシステムに向かって変化してきている。