連載 人事制度解体新書 第14回 創建ホームズ 人が活き活きと働くことのできる、 強くて正しく、そして続いていく会社を目指す
言い古された表現だが、「企業は人がつくるもの」がある。ただそれを本気で思って、組織のなかで実践している企業はどれだけあるだろうか。今回紹介する創建ホームズは、人が活き活きと働ける仕組みを試行錯誤で築き上げ、急成長を遂げていった。創業経営者である丸本吉紀氏に、同社のユニークな「人づくり」と「組織づくり」、そしてリーダーのあり方について詳しく話を伺った。
デフレを跳ねのけるビジネスモデル
デフレ経済の直撃をまともに受けた建設業界のなかにあって、1994年に設立された創建ホームズはこの10 年間、一貫して増収増益を続けている超優良企業である。年商は165 億円を超え、業績を表すあらゆる指標が「右肩上がり」を示していることにまず驚かされた。同社は、都内城西・城南地区を中心に、木造の注文住宅と戸建分譲住宅を建築・販売している。その品質と安全性、デザイン性に秀でていることによって顧客の満足を勝ち得ており、それが競合他社との差別化につながっている。
こうした同社の急成長と事業戦略を支えるのは、そのビジネスモデルにある。図表1 にもあるようにまず目につくのは、案件の獲得や販売に必要な営業活動を外部に委託するアウトソーシングを採っていることだ。そして、自らは住宅の企画から設計、施工に関する「モノづくり」に特化している。このように、人材と資金を得意分野に集中させることで、質の高い商品と顧客の期待に応えるサービスを実現させているのである。
さらに、地価が高く狭小地の多い杉並区や中野区、世田谷区を重点的に攻略している。これらの地域を選ぶ顧客の特徴として、高い所得水準、建物・サービスの質の高さを重視する傾向があるという。まさに「高品質住宅」を売り物にする同社が、最もその“強み”を発揮できる地域といえる。加えて、「地域密着型」の事業展開をさらに推し進めるべく、2003 年に横浜事業部、自由が丘事業部をオープン。従来の都内城西・城南地区を中心にシェア拡大を図るとともに、独自のビジネスモデルで勝負できるエリアに限定した、新規出店を行っている。
そして、隣接業種への展開として、リフォーム事業開発チームを発足。これを無料定期点検後のお客さまとのコミュニケーション機能、また保証期間経過後の有償サービスと位置づけ、同社の企業理念である「お客様第一主義」のさらなる強化を図っている。
図表2にも示したように、事業エリア戦略を進めると同時に、事業カテゴリー戦略を同時進行させ、同社のブランド価値をより高めていく戦略を取ることで、今後のさらなる発展が期待されている。
30人を超えたら、目が行き届かなくなった
このようなビジネスモデル、事業戦略の優位性もさることながら、他社にはない創建ホームズの特徴として、顧客の要求に徹底的に応じる高い意識を持った「人」の存在があげられる。同社の創業者でもある代表取締役・丸本吉紀氏は、次のように語る。
「急成長してきたなかで、当社も従業員が増えてきました。それがある時、30 人を超えたころからでしょうか、私の目が行き届かなくなってきたのです。それまでは、社員全員の勤務態度や実績、それこそ個人的な事情まですべて把握できていましたから。これでは、いままで築いてきた社員との信頼関係を失いかねないし、何より仕事の質の低下につながると思いました。
ならば、私の代わりに社員の仕事ぶりを見てくれる“代理人” をつくるしかないと考えたわけです。その人たちに社員をよく見てもらい、やる気と結果を引き出してもらおうと考えました」
何より、「会社は楽しくありたい」というわけである。そのように活き活きと働ける職場をつくるには、どうすればいいのだろうということで、人事制度を考えていったという。
「思うに、良い会社というのは、単に儲かるだけではありません。当然、お客さまに満足してもらえなくてはなりません。また、社会貢献もあってしかるべきです。そして、何よりも社員の働きがいと幸せを考えていかねばならないと思っています」(丸本氏)
そうした考えの下、創業して間もないころにその思いを「経営理念」ということで「創建ホームズ宣言」として掲げていった(図表3)。
そもそもビジネスとは、どこを向いて商売をすればいいのか。丸本氏は「私たちの周りには、お客さまがあって地域社会があります。もちろん株主も。そしてその中心に、社員を位置づけることができると思います」と言う。ビジネスのあり様を深く考えていれば、こういう捉え方はある意味、当然といえるかもしれない。
「人材」と「仕組み」にこだわる理由
「企業は人なり」と言われる。確かに人は、経営資源を構成する重要な要素だ。しかし、その人もモノと同様に陳腐化したり、メンテナンスをしないと劣化していく。常に刺激を与えて、活力を保っていかなければならないのだ。それと同時に、顧客のニーズが多様化してくると、フレキシブルに対処できるという意味において、人に勝る経営資源はないように思う。
「私は、経営は人次第、という感覚を持っています。これは経営者についてもいえることです。良いリーダーがいないと、会社はもちません。そして、良いリーダーは活力ある組織のなかでこそ育っていきます。
その意味でも、良いリーダーが育つ環境をつくることが大切です。実際問題、これだけ変化が激しい時代では、その変化をかぎ取って先取りし、リーダーシップを取って行動していくリーダーの存在が非常に重要となっています」(丸本氏)
経営者として強くて長く続いていく会社、そして社会的責任を果たす会社のあり方を考えていった丸本氏は、これらを支える根幹は「人」であるとの思いに至ったという。そして、そうぃうことを実現できる人を採用し、育てていく仕組みを考えていくことが、経営者としてのミッションであると考えたのだ。
「いくつか特徴的な制度をつくりましたが、それもあくまで人や組織を育てるための仕組みです。どうしたら人のモチベーションは高まるのか、責任感が持てるのか、楽しく働けるのか、生きがいを求められるのか、等々を考えていくなか、試行錯誤でつくっていったものなのです」(丸本氏)