連載 人材と組織の強みを活かすAl 第6 回 AI 実践のプロセス ー Design
AI では、第1ステップDiscover で「理想を実現するための資源」を発見し、第2ステップ□ream で「理想を具体的にイメージ」した後、そこに至るまでの「道標」を明らかにしていく。今月号では、提言を全員が共同作業で作る第3ステップの「Design 」について紹介する。
Design と Planning の違い
デザインとは、ご存じの通り「設計」のことだ。 AIでは、「未来を設計する」という意味が込められて、このDesignという言葉が使われている。通常、組織戦略を構築する際には、Planning という言葉が用いられるが、Planning が「段取りを箇条書きで示す」という二ユアンスを持つのに対し、Design という言葉には「全体のバランスを視野に入れながら、美しく調和を図る」という響きがある。
ビジョンを実現するための活動宣言ともいえるAI の「提言」は、「現在の姿と将来の希望とをつなぐ架け橋」であるといわれている。第2ステップの「Dream 」では、いまをつくり出した習慣からいったん離れ、組織や組織を構成する個人が本来望むものを、ビジョンとして表現し、社員相互の間で共有してきた。
ここでの「提言」をつくり上げていく作業そのものが、ビジョンを効果的に実現させるための組織全体の活動となるのだ。つまり、少数の「戦略」「企画」部門のスタッフだけでなく、全社的な取り組みとして提案をまとめ上げていくプロセスを含むところがAIの特徴といえよう。
当事者として設計する
第2 ステップのDream で組織全体がつくったビジョン(Collective Vision)を基に、部や課やチームごとに、自分たちが目指す目標を実現させるための「提言」をつくる。ここでの提言は、企業組織のなかに元から存在している規範のように、有無を言わさず「従わなければならない」ものではなく、自発性を伴うものだ。社是や経営理念、行動指針などが、どんなに高邁なことを語っていても、社員にとって、それが押しつけられたと感じた時には、行動に結びつかない。
AI では「提言」をPossibility Statement あるいは、Constructive Provocative Proposition などと言う場合があるが、その実現を他人任せにするのではなく、自らが行動者として、実行に携わつていくイメージを持ちながら、建設的にまとめ上げていくところが、AI らしさといえるだろう。「やらなければならない」より、「やりたい」という気持ちがある方が、人は自然に行動を起こすことができる。行動が積極的になるのは必然的だ。
つまり、単純なトップダウンでも、ボトムアップでもなく、さまざまな部署のあらゆる立場の人たちが同じ土台に立って参加する行動であり、全方向からの総合的アプローチからアイデアが形成されるのだ。
その意味で、提言づくりは、いわば会社の「設計図」づくりともいえる。自分たちの活動指針となる「提言」をつくることは、会社組織そのものを設計し再構築していく作業ということになる。
ビジョンを創る力
AI のプロセスを通じて、一貫してキーワードとなるのが「ビジョン」という言葉だ。第3ステップでも、ビジョンが重要な位置を占める。
ハーバード・ビジネス・スクールの、アメリカをリードする「センスのある経済人」についての調査によると、彼らは大きく分けて3つタイプに分かれるということがわかったという。mold breaker, visionaries (因習を打ち破り、ビジョンに基づき新しい分野を開拓する大):mold makers (新しい方法を考える人卜mold takers (流れを捕らえ、固める大)。
ここでも問われているのは、ビジョン、つまり、先見性だ。 AIでは組織の構成員全員がビジョンを持つことが必要とされ、自ら自分かとっていきたい行動や活動について考え、具現化していく。先を見る力を養い、ビジョンを具体化する力が組織に備わることは、組織としての財産といえよう。
AI の特徴は、visionariesは[少数の特別な人]であると決めつけずに、1人ひとりのなかにある、visionary的な資質を、参加型の手法により開花させるところにある。人間の持っている大きな可能性に対して、高い期待があることがAI の前提なのだ。