ケース3 電機連合 ハートフルセンターは 組合員が安心して働けるための セーフティーネット
産業構造が転換するなかで、働き方も大きく変化するようになった。同時に専門化・高度化・個別化が進む職場環境のなかで、メンタル面の悩みを抱える人々も増加候向にあり、労働組合にとっても、そうした組合員の心の悩みに対応することが大きな活動の柱になりつつある。ここでは、産業別労働組合としていち早くメンタルヘルスへの対応を始めた電機連合のケースをとりあげ、労働組合の視点からメンタルヘルスの問題にアプローチしてみたい。
新たな処遇システム構築を背景としたハートフルセンターの設立
今日の日本経済において、電機産業ほど大きな環境変化に直面した産業はないかもしれない。例えば、電機産業の就業構造を見てみると、1985 年時点で約半々たった技能職と事務技術職との比率が、1990 年には4対6 、2003 年には3対7に変化している(電機連合「賃金実態調査」より)。これは、経済のグローバル化やIT の日進月歩の進化のなかで、革新的な技術開発力を強化する一方、高コスト構造を打開するために生産拠点を海外シフトしていった実態を示すものとして興味深い。
当然、そうした就業構造の激変は、企業の雇用制度、あるいは個々人の働き方を大きく変えることになる。こうした実情を受け、電機産業で働く人々で構成される産業別労働組合、電機連合では、1998 年7月の第46 回定期大会で「新しい日本型雇用処遇システム」を提起・決定することになった。
電機連合が運営する「心の健康相談センター」(ハートフルセンター) は、こうした新たな雇用処遇制度の構築を背景にしながら設立されたもので、1998 年、関係各方面の協力・理解を求めながら正式にスタートすることになる。ハートフルセンターの運営担当である中央執行委員労協福祉政策部長の篠原淳子氏は次のように語る。
「『新しい日本型雇用処遇システム』に貫かれている考え方は「自立」と「自律」。具体的には、『1人ひとりの知恵と能力が発揮できるようなシステムづくりが不可欠』という認識のもと、裁量労働制を含めた多様な働き方の提起とチェックシステムの整備や、能力主義・成果主義などを踏まえた処遇システムの構築などの問題を、労働組合として主体的に提起することにしました。
同時に、労働組合の基本的な役割として、組合員が安心して働けるセーフテイーネットづくりも重視することになったのです。能力主義や成果主義の導入は、個々人の意欲を喚起するなどのメリットがある反面、能力・スキルの一層の強化・自立化か求められ、精神的に大きな負荷要因になることから、メンタルヘルス等の問題にも積極的に取り組んでいくことを決定しました。また、社会環境・システムの変化によって、個人の生活観や働き方の変化など、人生や生活にかかわる部分の悩みも多くあったことから、さまざまな悩みに対して気軽に相談できるシステムをつくることも求められていました」
IT化社会がストレスを増大。重要性増すメンタルヘルス
1997 年、電機連合では、「新しい日本型雇用処遇システム」策定に先立って、「職場の人間関係に関するアンケート」調査を実施している。調査そのものは直接的にメンタルヘルスを意識したものではなかったが、結果的に、組合員の多くがストレスや精神疲労を感じている実情が浮かび上がった(調査対象者のうち服3 % の人が、「ストレスや精神疲労を感じる」と回答)。
調査当時はいわゆるTTイヒが急速に浸透してきた時期。理化によって業務が高度化・複雑化するとともに、合理化によって職場要員が減少し、個々人の労働密度が囗に日に高くなっている時期でもあった。また、パソコンを使えるか、使えないかによって個人の能力が決まってしまうような風潮が生まれ、パソコン、理を活用することで成果が上がる分、それらを活用することで精神的な負荷が増大してきた時代だと考えられる。