連載 起業するイノベーターたち 第21 回 志高く新ビジネスに挑戦する
ヴァーチャル・リアリティー(VR=仮想現実感)の分野で、いま最も注目されている日本企業はどこか。この問いかけに、即座にソリッドリレイ研究所の名前をあげる人は、かなりの業界通であろう。小規模企業だが、抱えている顧客は官公庁や大手企業など一流どころばかり。ただし、事業の中心が受注開発のため、実力の割には世間一般の知名度はそれほど高くはない。「少数精鋭でVRの世界をますます面白くさせたい」と語る神部勝之社長率いるこの企業こそ、VRの世界の小さな巨人である。
家族の猛反対を押し切って起業
社名のソリッドレイというのは造語で、ソリッドは立体物、レイは光線を意味する。立体物を発射する光線をつくる、言い換えればコンピューターの3次元データを空間に浮かび出させたい、という社員一同の願いに由来している。
同社は、アメリカで世界初のVR(ヴァーチャル・リアリティー) の商用システムが登場した1989 年を遡ること2年前、横浜で誕生した。 CAD(コンピューター支援による設計) の会社をスピンアウトした6人の技術者たちが興した企業である。同社のVRが他社のものと一線を圉すのは、写真から映像を起こすのではなく、データの解析結果から立体映像を制作している点にある。この方法を会社設立以来、一貫して続けている。
もっとも、同社が誕生した当時は、まだVRという言葉は生まれていない。したがって、設立当初から「VR専門企業」をうたっていたわけではないが、目指すところはVRそのものであった。
神部勝之社長は次のように語る。
「立体映像に特化しかビジネスを手がけたかったのです。コンピューター技術の発達で、CADは2次元から3次元へとシフトしましたが、3次元データをコンピューターで見る場合、通常はディスプレーという2次元で見るので、数学的に言うと3次元から2次元への投射が行われています。しかし、これだと3マイナス2となり、1つ少ない。その分、何らかの情報が漏れているだろう。
3次元のデータを3次元として捉える一番自然な方法は空間で見ることだ。この考え方はきっと市場に受け入れられるだろうと思ったのです。
当時、これを実現しているシステムは少なくとも国内にはなかった。よし、どこもやっていないシステムを手がけてやろうと、会社を興したわけです]
どこも手かけていないビジネスに挑戦する、これはまさにベンチャースピリッツである。もっとも、志だけは高かったものの、ビジネスにあてがあったわけでもなく、不安でいっぱいの船出だった。事実、神部氏は家族や親族から猛反対を受けたという。