連載 WAVE 日産自動車 「気づき→ 理解→ 習得」のプロセスを通じて 理解を深めていく評価者研修

2004 年4月、日産は新しい人事制度をスタートさせた。「日産リバイバルプラン」実施時期に導入した部課長層への成果主義を、一般層へも取り入れたのである。ここでは、成果主義の前提として必要な、その評価の納得性と透明性を高めるために、日産が部課長層を対象に行った評価者研修への取り組みを紹介する。
モチベーションをいかに高めるか
一般層への新人事制度導入に際して、日産自動車は2 年の準備期間を要した。新人事制度が目指しだのは、会社と従業員がともに成長できるための環境づくり。そのために2002 年、日産は人事制度に関するアンケートをウェブ上で一般層に対して行っている。アンケートに対する解答は4,000件以上集まった。
アンケートは、選択式のほか、さまざまな思いを表現するスペースも設けられた。「そこで上がってきた意見のほとんどは、評価に関して、①評価基準を明確にし、評価の納得性と透明性を高めて欲しい、②成果・能力を重視した評価制度への期待、というものだった」と語るのは、人事部人財開発グループ主担大江功次氏。また、「キャリアに関しては、“キャリアを会社とのニーズを鑑みたうえで、自分で選べるようにしたい”、“ キャリア開発のための研修機会を設けてもらいたい”という意見が回答者の約90 %から上がっていました」と述懐する。
労働組合が新人事制度のフレームワーク(骨子)に合意したのが2002 年12月末。そして最終合意は、2003 年11 月であった。組合との交渉と平行しながら、約半年~1年間の準備期間を経て今年4月、日産は部課長層同様の成果主義を一般層へも導入したのである。
前述の通り短い準備期間で、人事制度改定を整備したほか、成果による評価の納得性と透明性を高めるために、部課長層に対しては評価者研修、従業員に対してはキャリアデザイン研修を行っている。もっとも、研修スタッフはわずか4名。評価者研修に2名、キャリア研修に2名という陣容である。
大江氏が担当したのは、部課長層の評価者研修。評価者研修の対象は、部課長クラス2,200名たった。
研修を開始したのは2003年10 月末。もっとも研修は新制度実施前には修了させなければならない。わずか半年弱で研修修了率90 %以上を目標に、結果的には2,600名以上(海外出向者や日本に在籍する外国人約60 名を含む)もの対象者に研修を行ったわけだから、外部スタッフとのパートナーシップがあったとはいえ、実施までの道のりは決して容易ではなかった。
もちろん02 年のアンケートの結果から評価者研修の必要性は明らかであった。しかし、組合との合意後も制度運用に関する決定を待たねばならず、研修の開発が開始されたのは、2003年9月だったのである。
評価者研修の目的は、「評価者が新人事制度と自らの評価傾向を理解し、部下のキャリアプランの実現とモチベーションの向上に貢献し得る評価・面談スキルを身につける」というもの。これを達成するためはどうすべきか。
この問いに対し大江氏は、[ もともと研修には疑問を抱いていました] と思いがけない答えを返した。
「例えば評価者研修などは、一般的には集合研修を1 日行って修丁ということになりがちです。しかし、これで目的は達成できるのだろうか……。だいたい人事部が強制する研修に社員は喜んで参加するでしょうか9
人間は、本質的には変化を好まない。研修は変化を強要するわけですから、受講することを面白く感じるはずがない」
この前提に対し、いかに受講者の気持ちを盛り上げるか、大江氏は熟考したという。
大切なのは、受講生に「なぜこの研修が必要なのか」を理解してもらうこと。そのための手法はいろいろある。