ケース3 大日本印刷 マイスター制度導入の目的は 高度技能者の表彰にあらず 目的はあくまでも後進の指導育成

製造業の使命は、高度な技能や技術を常に進化させて、伝承させること。大日本印刷では2001 年、技能伝承のミッションを果たすために、マイスター制度を導入した。機械化、自動化が進んだとはいえ、最後は人間の感性を必要とする要素が多い印刷事業では、高度な技能が次世代の競争力となる重要な経営資源と位置づけられる。加えて、団塊の世代の大量離脱を間近に控えていることから、技能伝承に本腰を入れることとなった。
高度技能を未来永劫発展させていく義務
長年、属人的な暗黙知として培われてきた匠の技能を、次世代にどう継承していけばよいのか一一。大日本印刷が導き出しだ技能伝承の解” は、〈マイスター制度〉の導入たった。
人事部長の宮健司氏が概説する。
「2001 年5月、創立125 周年を迎えた当社は、社長の北島義俊が“DNP グループ21 世紀ビジョン”を発表しました。そのビジョンのなかで、当社の事業の中心を担ってきたプリンティングテクノロジーの技能をしっかり伝承し、次の時代に発展させていく方向性が打ち出され、マイスター制度が創設されたのです」
大日本印刷にとってプリンティングテクノロジーはコア・コンビダンスそのものであり、比類なき高度な技能がいかに伝承されるか否かは、次世代の競争力を左右する重大な経営課題であると認識された。
さらに人事部シニアエキスパートの牧田明氏が指摘する。
「印刷事業の世界においても自動化や省力化の進化によって、経験を積んだ技能者が培った高度な技能の伝承が難しくなってきました。製造業の使命は、高度な技能や技術を常に進化させて、伝承させることですから、私たちにはその技能を未来永劫に発展させていく義務があるのです」
では、そうした製造業のレーゾンデートルを左右しかねない技能伝承のミッションを果たすためには、どうしたらよいのか?
こうして、マイスター制度の導入が着手されたのである。
マイスターになるために満たさなければならない三つの条件
技能伝承のミッションを果たすには、次のような現実的な問題も迫っていた。
「匠の技を磨いてきた高度技能者を抱える団塊の世代が、もうすぐ定年を迎えます。そうした人材が抜けた後の製造現場は、どうなってしまうのだろうかといった危機感も、製造部門や人事部門にあったのは事実です」(牧田氏)
高度な匠の技能がマスで伝承されてきた最後の世代ともいえる団塊の世代。団塊の世代後の製造現場を描いた時、技能伝承への時間的猶予は、もはや残されていなかった。
大日本印刷では、優れた能力を持つ定年退職者を最長で65 歳まで雇用延長する「シニアスタッフ制度」を、2000年に導入。新たに運用するマイスター制度とシニアスタッフ制度を相互補完させながら、高度技能の伝承を展開する方針が打ち出された。
では、高度技能の継承者であると認定されるマイスターの条件とは、いったい何なのだろうか。匠の技の継承者を認定する基準とは、何なのだろうか。
大日本印刷では、マイスターの認定条件を次のように規定している。