巻頭対談 「やる」と表明したことは「やり遂げる」 実行がカルチャーになることで好循環が生まれる

100年以上の歴史を有する名門企業であるだけでなく、フィナンシャル・タイムズによる「世界で最も尊敬される企業」で幾度も第一位を獲得するなど、現在においてもダイナミックな企業文化で知られるG E。前CEO ・ ジャック・ウェルチ氏の強いリーダーシップで経営革新を実現して以来、エクセレントカンパニーとして存在し続けるG Eの強さは、どこに起因しているのだろうか。同社の実行力ある組織づくりについて、GEキャピタルリーシング代表取締役社長伊藤伸彦氏に、日本におけるG Eのワークアウト導入に尽力してきた刪|痳口生一橋大学大学院教授が迫った。

“やる”と表明したことを“やり遂げる”力が「実行力」

一條
最近、実行というキーワードをよく耳にします。多くの企業が実行なくして企業経営は成り立だないと認識しているからです。しかし、実行力のある企業で世界ナンバーワンとなると、私はやはりGEだと思います。そこで伊藤社長、実行力のある組織づくりには、何か最も大切であると思いますか?
伊藤
難しい質問ですね(笑)。実行力のある組織をつくるには、優秀な人材を継続して採り続け、さらに優秀な人材を組織内に定着させ続けることが必要だと思います。
一條
この場合の“優秀な人材”とは、どういった方を指すのでしょうか?
伊藤
これも難しい質問ですね(笑)。自分がどうあるべきかのビジョンを持っているかどうか、そしてビジョン実現に向けての意志の力がどれほど強いかということではないでしょうか。
私は、ビジネスディペロップメント(事業開発) 部門のマネジャーとしてGE に入社しました。当時私は、何年か後にはGE のようなグローバル企業のビジネスのオペレーションをぜひやりたい、そう考えていました。だからこそ、GEに入社したのです。
しかし、当時の私には同時に制約もありました。家庭の事情で2、3年は日本にいなければならなかったのです。ですからこの間、私はビジョン実現のためにアメリカ、ヨーロッパ、アジアの人々とコミュニケーションができるようにまた世界レベルの仕事ができるための準備をしようと考えました。
私は、ビジネスのオベレーショ‘ンやユニットのリーダーになりたいという願望の有無は、いわゆる“優秀な人材”という際の大きな尺度になると思います。ファンクションのスタッフで優秀な大はたくさんいますが、そのなかで大小にかかわらずビジネスのオペレーションを任せる大を探すとなると、間口はうんと狭くなります。
私自身が人材を抜擢する側になり、その大にこのビジネスのオペレーションを任せられるだろうかと決定する際には、私はその人の意志がどれほどのものか見極めるようにしています。やりたいという希望を持つ大は多い。しかし、ビジョン実現に向けて本当に実行できる能力を持っているかどうかを判断するのはとても難しい。ほとばしる情熱をかぎわけるという感じですね。
一條
なるほど。ところで、さらに踏み込んで、優秀な人材が持つべき能力とは何とお考えになりますか?
伊藤
自分がやろうとしていることを相手に伝えるコミュニケーション能力が最も重要だと考えます。日本人は“無言実行” という言葉を好みますが。これはコミュニケーションなしに実行できたということ。これでは実行力のある組織は成り立ちません。例えば、日産自動車のCEO ・ カルロス・コーン氏が実現させた「日産リバイバルプラン」。これをコーン氏はまだ本当に実現できるかどうかわからない状況のなかで発表しました。もちろん、コーン氏には実現の道筋が見えていたのでしょう。だからこぞやる”と宣言した。そして実現されたわけです。
実行がカルチャーになれば結果の好循環が継続する

伊藤
一條先生は、GEを実行力のある企業で世界ナンバーワンだと評してくださいましたが、こういったこと、つまり“やる”と表明したことを“やり遂げる”ということがGEでは当たり前のことなんですね。われわれはこれを毎年毎年積み重ねている。少なくとも私の15 年にわたるGEの経験のなかでは、ウェルチ、イメルトはもちろん、事業部門の長、ファンクションのリーダーにしても、年初にやると表明したことは、その1年後には必ずやり遂げています。