人事制度解体新書 第18回 ワンダーテーブル 求められる「能力」を明確化し、 「仕事」で給与が決定する 「職務等級制度」を徹底していく

周知の通り、飲食業界では顧客接点を担う店舗従業員の「質」が、競争力を大きく左右する。ワンダーテーブルでは、正社員はもとより、アルバイト社員がその力を存分に発揮できる職場環境を実現するために、この春から順次、人事・評価制度の大幅な改定を進めている。現在、その取り組みの真つ最中にある人事部長の程島敏明氏に、その概要とポイントを聞いてみた。
「F 社員」「A社員」と呼ぶ理由
ワンダーテーブルは東証二部上場企業の富士汽船としての「海運業」における長い歴史があるが、1991 年にヒューマックス・グループが資本参加し、本格的に「飲食業」を始めたのはここ10 年あまりのこと。実際、ワンダーテーブルへと社名を変更したのは4年前のことである。現在の同社の盛況ぶりしか知らない大にとっては、意外な事実かもしれない。
昨今、雇用形態の多様化が叫ばれているが、ワンダーテーブルも、258 人の「F (フルタイム) 社員」と呼ばれる正社員と、1,164 人と人数のうえでは4 倍以上に相当する「A (アルバイト)社員」とで構成されている。程度の差はあるが、飲食業界ではこのような人員構成を取ることが多い。そして、同社では3年ほど前にF 社員とA 社員を明確に分けていくことを宣言した。
「それは、スポーツに例えれば、A社員が実際のプレーヤーで、F 社員は監督やコーチの役割に分けたといえるかもしれません。ただし、F 社員であろうがA社員であろうが、皆、会社の一員であることに変わりはありません」と話を切り出してくれたのが、人事部長の程島敏明氏である。
店舗として、「チームプレー」や「仲間意識」をどうつくっていけばいいのかということを考えた場合、一般的には、飲食業界では「正社員」と「アルバイト」の身分的な“差”を感じさせる風潮がある。これが、何かと障害となっていた。
「結局、正社員とかアルバイトとかは関係ないのです。店の仲間、会社の一員として、全員を社員と呼ぶべきではないか、と考えたわけです。ただ、全員が同じミッション、役割を担うわけではありません。給与計算の仕方も違います。だから、その求める要件に応じて、『F 社員』『A 社員』と呼ぶことにしたのです。
何よりも、店舗で働く正社員とアルバイトの壁をなくしていくことで、アルバイトとして入った後、正社員として働くことを望むような人が増えていって欲しい。それは、店や会社に魅力があるということにはかならないからであり、そういう風土を持った組織を目指していきたい。そのうえで、それを実現する人事制度や評価システムというものがあると思っています](程島氏)
つまり、正社員だから待遇が違う、アルバイトは特に考えなくていいというようなことではない。正社員、アルバイトに関係なく、まずは皆が「社員」として同じ仕組みのなかで、有機的に動いていくことが大切なのである。そういう「思い」があったからこそ、F社員、A 社員というネーミングに見られる「全員が社員であること」を徹底したのだ。
「F社員」と「A社員」では、何か違うのか
お客さまからすれば、正社員、アルバイトということは関係ない。事実、飲食業においてはお客さまに対するサービスの良し悪しが、大きな差別化要件となってくる。何にもまして良いサービスを行うこと、これを常に根底に置かなくてはならない。決して良いサービスを行うのが正社員でアルバイトはその補助、ということではない。各店舗にとってみれば、そんな区別は全く意味がないことだ。
「現実問題として、主にマネジメント業務を行う正社員よりも、顧客接点を担うアルバイトがどういうサービスを行うかが、現場レペルーごはポイントとなってきます。その意味でも、アルバイトへの教育、そして定着率をいかに高めるかについては今後とも重要なテーマであり、常日ごろから気を配っています」(程島氏)
では、いったいF 社員とA社員とでは、何か違うのだろうか。「第一には、役割が違います。A社員の役割は、店舗における接客です。一方、F 社員は店舗におけるマネジメントを担当します。そして、給与体系が違っています。A社員は時給制、F 社員は月給制であり、A 社員には賞与はありません。また、評価期間がA社員は3ヵ月、F 社員は半年となっています。この程度の違いがあるだけで、ほかは基本的にすべて同じです」(程島氏)。勤務時間にもよるが、A社員でも社会保険に入っている人は多く、有休も取得しているという。
ところで、各店舗におけるホールの組織としては、①料理を配膳する「バッサー」、②お客さまの注文を聞く「アドバイザー」、③ その上の「ホール主任」、①店長に相当する「支配人」、という4つの職位で構成されている。このうち、③のホール主任までは、A 社員でもなることができる。だから支配人になろうと思ったら、まずF 社員になることが必須条件となる。同時に、これをいかに進めていくかが、同社の大きな課題でもある。
一方、本社組織は正社員のほか、派遣スタッフ、アルバイトなどで構成されている。もともと正社員については、金融業界のように一般職、総合職、専門職といった職掌区分を採用していたが、今年の春に一般職を廃止した。
何を「能力」とみなすか?
実は、今年の春から同社では順次、人事制度の改定に取り掛かっており、現在はまさにその作業の真っ最中である。多くの課題が山積するなか、特に問題となったのは、何を「能力」として判断していくかということであった。
例えば、ある支配人の仕事振りに対して「できる」と評価した場合、何を基準にして判断しているのか、それこそ千差万別なのだ。とはいえ、共通の認識であるかのように話をしている実態もある。
「ワンダーテーブルとして、支配人に必要な能力は何なのか。それは例えば、企画力だったり、折衝力だったりしますが、これまでは皆が共通に理解していなかったのが現状でした。まずは、この点について能力の“ 発揮度”というくくりのなかで、人事考課表の内容を明確にしていく必要がありました」(程島氏)
店舗数は50 を超え業態の数も10 以上あるなかで、各々の業態ごとに求められるサービスの内容が違ってくる。しかし、業態ごとに評価制度を変えていったら、現場が混乱してしまう。それはやりたくても、いまのところはできない相談だ。何より、経営効率上の観点からも、まずは全社的に一本化していかなければならない。
もちろん、将来的には業態ごとの対応を考えるべきなのだろうが、今回は、「本社」と「店舗」、そして店舗のなかでも「ホール」と「調理」に分け、少なくともこの3つの区分の違いは明確にしていこうということで、評価制度の改定を行った。
「職務等級制度」の概要
そもそも同社の人事制度は、「人」ではなく「仕事」で給与が決定する「職務等級制度」を7年前から導入しており、実力のある社員ほど上位等級の職務に従事する実力主義を徹底している。ここでは仕事ごとに給与が決まっており、年齢、勤続年数、性別などは何ら関係ない。
等級は12 に分かれており、①1~ 4級、②5 ~10 級、③11 ~12 級の3つのクラスにまとめられる。