連載 現場支援のe-HRM HRMの全社的な協働を支援する 新たなシステムが求められている

経営戦略に即した人材活用が求められるなかで、人材マネジメントの担い手は人事部門内から経営者、事業部長、ラインマネジャー、そして従業員本人へと全社に広かっている。これまで人事部門内での活用を前提とした人事情報システムも、全社的なHRMを前提とした新しいシステムへと進化する必要があるというのが、サイエンティア・荒井秀和氏の主張だ。
人事のためのシステムから全社的なシステムへ

われわれが人事情報システムを提供し始めた1992 年ごろは、ちょうどバブル崩壊後のリストラブームの時代だった。組織を変え、人を入れ替えなければならない状況のなかで、多くの企業が蓄積された人事情報がないことに気づき、人事情報をどう蓄えていくかが一つのテーマとなっていた。したがって、90 年代の人事情報システムは、人事情報のデータベースをどのように構築し、またそれを活用する仕組みをどうっくるかという、業務効率化や生産性向上のために利用されてきたといえる。
2000年代を迎え、われわれはそれまでのような目的とは違い、個人をどうやって活かすか、ヒューマン・リソースをどう活用していくかということにターゲットを絞る必要があると考え、新たなコンセプトに基づいた「意思決定支援システム」(Progress ④Site HR)の提供を開始した。しかし当初はまだわれわれが意図したことを考えていた企業は少なく、昨年辺りからようやく
われわれの考えが一般的になってきた。先行して取り組んできただけに苦労はしたが、その分製品としては随分進化してきたと考えている。われわれが新たに提案している意思決定支援システムとは、従来のデータ処理や業務効率化という部分から、組織のさまざまな場面でヒューマン・リフースの計画、活用、開発をするための意思決定を支援することに焦点を当てている。そのために必要となるのが[人材マネジメント情報]であり、従来の人事情報システムで扱われていた「人事管理データ」とは大きく異なる(図表1)。
従来の人事情報システムは、人事部主導で必要な情報が中央集権的に管理される構図である。そのシステムは月次や年次など決められた時期に情報を吸い上げる形のため、そこで扱われるのは途中のプロセスが削ぎ落とされた結果情報である。例えば、所属歴や業箍考課、教育研修受講履歴などがあげられる。しかし、現場やトップマネジメントが意思決定をするためには、結果情報だけでは意味を成さない。[データ]から意味のある「情報」に視点を移す必要がある。それは目標管理の内容と達成度、評価のコメント惰報、OJT記録などに例えられる。
このことは人に関する情報だけでなく、組織に関する情報についてもいえるO従来人事部で管理する組織データといえば組織図程度だった。しかし現場やトップマネジメントにおいては、各組織のミッションや方針、プロフィールなどの有機的な情報が求められている。各組織のミッションや方針は目標管理を行ううえで連携させるべき情報であるし、社内公募やFA 制度があれば、各組織がどのような業務を行っているのかを知る必要も出てくるO また、組織活注度や従業員満足度などの調査は行われていても結果が活用されていないケースが多いが、こうした調査結果の共有も、組織の実態を知るうえで有効な情報となる。
人と組織の有機的な情報を統合管理する
これらの人事や組織に関する情報を、コンテクスト(文脈性)の高低を横軸に人と組織のいずれに関する情報かを縦軸に置いたマトリックスに整理すると、図表2のようになる。従来の人事情報システムを用いて人事スタッフで管理していた情報は左側の領域、すなわちコンテクストの低いデータである。それに対して、現場やマネジメントにおいて必要な情報は、右側の領域のコンテクストの高い情報であり、これらの情報を管理する仕組み、有機的に活用するための場が、われわれの提供する意思決定支援システムである。
近年、自分の管理は自分で行うという「セルフマネジメント」の考え方がはやっているが、多くの場合、左側の領域にとどまっているケースが多いのではないだろうか。これまで人事部門が担ってきた入力業務を各自で行うというのは、人事業務の分散でしかなく、効率化のレベルでしか機能していない。こうした機能はもちろん必要だが、そこからさらに踏み込み、自分のキャリアを自分で考える場を提供し、組織としてそれを支援していくようなツールでなければならないだろう。
従来の人事情報システムとわれわれの考える意思決定支援システムとの違いは何か。かつては本社や拠点の人事スタッフがHRM の担い手であり、その人事部門を支援するシステムが一般に人事情報システムといわれてきた。しかし現在は、経営方針・ミッションから事業部方針・ミッションを経て、個人の目標までブレークダウンしなければならない。この目標の連鎖が重要であり、経営者や事業部長、そして上司や従業員本人も含めた幅広い層がHRM の担い手となっている。意思決定支援システムは、こうしたそれぞれの担い手を支援していくものである。