ケース1 三井住友海上火災保険 個人の内発注に訴えるCSR活動が 企業文化の創生と組織活性化につながる

三井住友海上火災保険はこれまで、CSRを企業文化として定着させる数々の活動に取り組んできた。有志による社会貢献活動の「スマイルハートクラブ」「チャリティ一一クリスマスカード」に加え、同社の2010 年の夢を語る「未来フォーラム2010」でCSR の重要性を再確認。社員全員参加で意見を積極的に取り入れた「行動憲章」など、個々がどうあるべきかを問いながら気づきを深め。地に足を付けての活動を展開している。
CSRの掛け声は若手から
2001 年10 月、三井住友海上火災保険は住友海上火災保険と三井海上火災保険の対等合併により誕生した。「合併ではなく、新会社創立である。
2社それぞれの過去の歴史は一度閉じ、新たな企業文化を確立しよう」というトップの号令下、あるユニークなプロジェクトがスタートした。「2010 年にはこんな会社になっていたいという夢を語り合おう」と、未来を担う若手社員に呼びかけ、自由な提言を募ったのである。
名付けて「未来フォーラム2010J o事務局が応募作品を選別してテーマ別に分科会を結成。全国から集まった若手社員が議論をしつつ提言の内容を煮詰め、経営トップの前でプレゼンテーションを行った。そのなかで、「2010年にはCSR といえば三井住友海上という評価を得ていることを目指したい」との提言が大きな共感を呼び、中期経営計團のなかにも盛り込まれた(図表1)。企業文化の創生には、CSR を追求する全社運動が大いに役立つに違いないーそう直観した植村裕之社長が先頭に立ち、社内外にCSR の重要性を積極的にアピールするようになった。
この時未来フォーラム2010CSR 分科会のリーダーを務めたのは、広報部社会貢献室副長・山ノ川実夏氏。いわば同社における「CSR 運動の生みの親」である。山ノ川氏は社会貢献活動のリーダーを務め、チャリティーのクリスマスカードを考案して世界の紛争地域の子どもたちを支援したり、社員の給与の一部を積み立てて福祉事業に寄付するなどの地道な活動を重ねてきた。
CSR 分科会メンバーは7人で、名古屋勤務の社員の都合に合わせて会合は金曜の夜6時から開始した。深夜までに及ぶ議論になることもしばしばだったという。
「会社のあり方や、自分たちの働きがいについて真剣に考える機会を合併直後に与えられ、感動しました。これから会社がどんどん楽しくなりそうな予感がしましたね」
プレゼンテーションの直前、日本におけるCSR 論の第一人者である麗洋大学の高巌教授を招いて予行演習をしたというから、なんともぜいたくだ。山刀日氏の人脈の広さがうかがえる。高教授から「CSR 会計の発想が面白い。実現したら世界初だ」と評価され、大いに励まされたという。
CSR 会計とは環境会計の考え方をCSR に援用したもので、「CSR は戦略的投資である」との認識に立ち、そのコストと効果を定量的に計測し、まとめたものである。

CSR を全社ネットワークで展開
このようにCSR についての取り組みは、若手社員の活動を通じて内発的に醸成されていった。それを、企業文化の創生とCSR の関連性に着目した経営トップが支援するという図式である。また、その背景には、「保険業という事業の特性とそのなかで培われた思考・行動様式があります] とは経営企画部次長の井上健氏。
「災害や事故の被害を受けた方に保険金をお支払いして、持続的な発展を支援するという事業はそのままCSR に直結します。また、金融機関にとって最も大事なことぱ信頼”であり、すべてのステークホルダーから信頼されるような会社をつくっていくというCSR 活動は、われわれの本業そのものといえるでしょう」