連載 人事徒然草 第7 回 あなたは会社で生き残れますか?

京都で牧師をしていた娘夫婦が、来春ドイツの田舎にある神学校に留学することになった。娘と孫3人が千住のマンションに帰省(寄生)している。孫娘を自転車に乗せ保育園に送っている。毎朝のことなので、同じように子供の送り迎えをするお父さんお母さんたちと顔馴染みになってくる。あたふた職場へ向う彼等を見送りながら「大変だなぁ」と同情し、思わず「がんばれよ」とエールを送っている。
担任の保育士の先生はようやく慣れた孫たちがすぐドイツへ行ってしまうことを残念がって下さる。孫本人は先のことは知らず「今」に夢中なので、余計あわれを催すのだろう。娘に「親の都合でかわいそうじゃないか」と言うと、「私たちだってお父さんの都合で何回も転校したじゃない」とやり返されてしまった。そう、40年の現役時代、自慢にもならないが、単身赴任5回を含み22回の転居をしていたことを忘れていた。
いまでこそ孫を猫可愛がりしているが、自分の息子や娘がどう成長してきたのかほとんど記憶にない。私も自分なりには会社最優先で生きてきた。働く人が朝出勤するのは当たり前の風景ではないか。
それなのに、幼い時期に集団生活に入っている孫たちと、先行き不透明な時代を生きている若い世代に、毎朝、たくましさ、けなげさ、いじらしさの入り混じった不思議な感情を抱いている。「人事制度改革のお先棒を担いできたあんたに言われたくない」となってしまうかもしれないが……。
一世代前の私たちが生きた時代はいまとは違っていた。皆貧しかったが、だれもが努力さえしていればなんとかなると信じていた。会社も、戦後の復興期から一貫して、企業一家意識を醸成する努力をしてきた。終身雇用制・年功序列の処遇・企業内組合・多様な福利厚生施策、いま否定されているこれらの制度がすべて良い方向に機能していた。従業員の側も、会社の発展と自分の成長を重ね合わせ、休暇も取らず、時間外勤務を進んで引き受け、報酬以上の働きをすることをいとわなかった。