海外情報 AI Conference 『第2 回 AIカンファレンス』 マイアミからの報告(後編)

2004 年9 月19 日(日)~22日(水)の4日間、米国フロリダ州マイアミで「第2 回 AI カンファレンス」が開催された。世界20 カ国から、AI を実践するコンサルタント、導入した企業・研究機関関係者を中心に約500 名の参加者が集う会議だった。近年のAI 導入における組織開発の成功事例が、50 を超える分科会の場で、惜しみなく共有された。今号では、そのなかで、フィンランドのノキア社、アメリカのハンターダグラス・ウィンドーファッション社の事例を紹介する。

分科会が協働のプロセス
AI カンファレンスの最大の特徴は「成功体験の共有」にある。AI コンサルティングの専門家も、また、AIを導入して成果を上げた企業も、その導入の経緯、組織をいまある成功へ導いたプロセス、実際にその過程で存在した問題、抵抗、混沌、障害……に関しても、情報を共有し、他社の取り組みの参考にしようという姿勢を持っているのだ。もちろん、企業秘密に関する部分は秘匿されるが、現代社会で多くの組織が直面する「壁」を共有し、ともに乗り越えようという同志性があふれ、「協働関係」が築かれていた。
カンファレンスの全体会は、AI の考え方の基本や4D サイクルの解説など、一般的な枠組みにエネルギーを注がざるを得ないが、テーマ・内容が多岐にわたる分科会(ラウンド・テーブル)にこそ、AI の効果が表れているといえよう。「成功に至るまでの山あり谷ありの具体的プロセス」のなかにこそ、AI の醍醐味が秘められているのだ。
ピーター・ドラッカー博士は、リーダーの役割は「強みを組み合わせることにより、弱みを無意味化すること」と喝破したが、分科会のディスカッションこそが、互いの「強み」を交流し、新しい知恵を生み出す場になっている。とりわけAI の業界では、「問いかけ」の重要性が強調されるので、発表者の一方通行のプレゼンに終止するのではなく、縦横無尽に問答が飛び交い、発表者と参加者が一つになって考える、という創発の舞台となっていたのだ。
「自分はいま、組織開発において、○○の問題に直面しているが……」と自らの事例を引き合いに出し、分科会のディスカッションのなかから、壁を突破する「ヒント」をもらっていた参加者も見られた。
ノキアの事例~Connecting People
分科会のなかでも興味深かったのは、フィンランドに本社機能を置くノキア(NOKIA Corporation)が、イギリスのAI コンサルティングチームの介入によって、アメリカとヨーロッパで1 年がかりで大規模な組織変革に挑んだ事例だった。
ノキアは、北欧中心に世界9カ国に製造拠点、11カ国に研究開発拠点を持つ携帯電話世界最大手の企業である。世界の携帯電話端末市場(2003 年)において34.7 %のシェアを記録し、トップに君臨。第2 位のモトローラ(14.5 %)と第3 位のサムソン電子(10.5 %)を大きく引き離しリードしている。日本でも1989 年4月に日本法人を設立し、研究開発や部品調達などの事業を展開している。
そもそもは、1865 年にFredrik Idestam により創設され、ヘルシンキの森林開発工場としてスタートした。1912 年にケーブル配線によるテレコミュニケーション事業に進出し、その後、1967年3 社が合併して、現在のNOKIA という会社の原型が生まれた。その後、1980 年にドイツ・フランスの電気通信会社を買収、80年代末にはオランダのケーブル会社を買収し、ヨーロッパにおけるテレコミュニケーション市場において急成長した。さらに次世代通信に着目し、携帯電話産業へと進出していった。スカンジナビアで世界初となるセルラーフォンを導入したのは、ほかでもないノキアだった。
「Connecting People」を社是に掲げ、企業買収を繰り返しながら、順調に業績を上げ、業界をリードしてきたノキアであったが、その一方で、2000年になると、役員たちは、「いかにして、ノキアの企業精神を活性化するか?」を模索するようになっていた。社内の人心をいかにつなぎ、結びつけていけばよいのか?大企業となったノキアにとって「Connecting People」が、まさに課題となっていたのだ。
ノキアがAIと出会うまで
本格的な取り組みが始まったのは2002 年のことだった。ノキアの組織開発・戦略企画チームにて手腕をふるうBruno Dalbiez は、かつてヒューレット・パッカード社の社内コンサルタントとして25 年の経験があり、AI の創始者クーパーライダー氏の論文を思い出した。Bruno はAI のアプローチこそが、ノキアの役員たちが探し求めている手法であるだろうと確信していた。
「ただ、当時アメリカの企業で醸成されたAI が、果たして大西洋を越えて、ヨーロッパの組織文化のなかで機能するのだろうか?