連載 人事徒然草 第9 回 モンゴルの風に誘われて

モンゴルの友人スフスレン・バンザラグチスレン、男、45歳、自称バンザイさんが、厳冬のウランバートルからやってきた。モンゴルの人は、風のように現れ風のように去っていくというが、このごろはメールの前触れがあるのでありがたい。
バンザイさんの本業は旅行会社社長で、秋から冬のオフシーズンには大学で日本語を教えている。教え子は日本語を覚えてガイドをする人が多いが、どう生きるかを含め、ガイドとしてのあり方のアフターケアもしており、現地で抜群の人望がある人だ。
去年の夏、私がハラホリン(カラコルム)を訪ねた時、彼はジンギス汗の墳墓発掘のプロジェクトに参加していてゆっくり話せなかったため、今回はぜひ会いたいという。喜んで宿泊先のJICA東京センターに出向いた。信義に厚いモンゴルの人も時間にはおおらかなので、指定してきた時間から1~2時間は待つ覚悟で行った。やはり読みどおりに1時間15分遅れ、モンゴル美人8人を引き連れ颯爽と到着した。遅刻を詫びる彼に「モンゴルには朝・昼・晩の三つしか時間がないからね」とからかうと、「成田には定刻に着いたが高速道路の渋滞で遅れたのだ。日本に来れば時間を守るよ」と返ってきた。今回はウランバートル人文大学から宇都宮大学に短期留学する日本語専攻の学生に付き添ってきたのだった。
バンザイさんに会うといつも民族の自立、個人の自立という話題になっていく。モンゴル国は、ロシアについで世界で2番目に社会主義革命を成功させた。以後70年間、ルーマニア・北朝鮮と並んで最後までソ連の忠実な衛星国であり続けた。90年、市場経済体制に移行、年々経済的には安定してきているようであるが、都市部の人心は荒んでしまった。識者はモンゴルの現在を明治維新になぞらえるが、むしろ日本の敗戦直後の混乱・無秩序が同時にやってきたようなもので、多少目端の利いた人はわれ先にうまく立ち回ろうとしている。
もちろんそんななかにも地道に民族の自立に思いを寄せ活動している人たちが大勢いる。バンザイさんも間違いなくその一人だろう。鯉渕信一氏(亜細亜大学教授・モンゴル学)に、モンゴルを教えられ、これらの人々を紹介されたことは私の生涯の幸せである。