短期連載 第3 回(最終回) チームに学習をもたらす 『ダイアログ』の進め方
前回は、ダイアログをもたらす4種類の基本的な行動のうち、「聞く」と「尊重する(尊敬する)」について、簡単に説明した。最終回である今回は、残りの「保留する」と「話す」についての説明と、話し合いの「場」の変化に関する説明を加えて、最後に話し合いの質を高める4種類のレバレッジという観点からの解説を試みる。
ダイアログをもたらす4 種類の行動(続き)
3.「保留する(吊るす)」
話し合いの場における思いや感情や行動を、川の流れに浮かぶ木の葉や枝に例えれば、「保留する」という行為は、木の葉や枝がどこから来たのかを探ったり、木の葉や枝の動きを決める水の流れや、川底の地形を観察したりすることに似ています。
「保留する」とは、私たちが、正当性を十分に検証していない習慣的な「思い」や「仮説」や「行動パターン」を認識した時、そうした思いや行動がどこから来ているか、またその思いや行動の持つ意味や、そこから生まれる結果や影響などについて、新しい角度から眺めてみることです。言い換えれば、「保留」とは、無意識のうちに繰り返されている思考や行動のパターン(メンタルモデル)に自動的に動かされている自分を意識して、その状態に注意を払い、意識的に自分がより本心から納得できる行動を取ろうとすることでもあります。
ダイアログにおいて「保留」ができるようになるためには、次のようなステップを参照するとよいでしょう。①まず十分に検証されないままに私たちを縛っている「仮説」、「前提」、「思い込み」、「行動パターン」といったものの存在に気づくことが最初です。②次に、自分の目よりもやや高い位置の、自分が手を伸ばした指の先あたりに、そうした「思い」や「仮説」などを「吊るし」ている様子をイメージします。
チームメンバーの緊密度の低い段階では、この「吊るす」行為は、個人の心の中で行われますが、ダイアログの場では、一人のメンバーが自分の抱えている仮説を開示して、みんなで場の中央にそれを吊るしたり、グループメンバーに共通するある特定の仮説が存在するように思える時は、その点を互いに確認し合って、その共通の仮説を場の中央に吊るしたりすることが行われます。そして、③そのように吊るした「思い」や「仮説」を、個人またはグループで、さまざまな新しい角度から眺めることによる探求を行います。
グループでの話し合いの場のみに限らず、一人の時でも、大きな集団のなかでも、常に保留を行うことができます。日々さまざまな場面で、保留の経験を積んでいる人が参加している場では、ダイアログが起きやすくなります。
4.「話す」
普通の話し合いの場では、その場にいる人々の反応を考えて、面倒が起きないような形の注意深い発言がされることが多いものです。もしくは、発言する前から発言内容が決まっていて、それを「ダウンロード」するだけの話し方であることも珍しくありません。それは、主に頭のなかにある過去のデータを追うだけの話し方です。これに比べ、ダイアログの参加者は、オープンな心で、一瞬一瞬変化する生きた思考に注意しながら話しますので、話している間に新しい洞察や発見があったり、いままでに考えたことのない新しいアイデアが浮かんだりします。
私たちが語る思いの出所には、「頭」と、「心」と、「本心」があります。「頭」の思いは人工的で、「心」の思いは自然な反応、「本心」の思いは人間の本分につながる思いであると言えます。「本心」は表面的なさまざまな壁や差異を超えて共鳴し合う性質を持っています。例えば、「自分さえよければいい」という思いは、「頭」や「心」の思いであり、大きな地震や災害などを経験すると、眠っていた「本心」が働き出して、お互いを思いやり助け合うようになるのだと言われています。ダイアログでは、「本心」の声に耳を澄ましながら話したり、聞いたりすることを心がけます。
ダイアログをすると、長年一緒に働いていた仕事仲間に初めて共感を覚えることができたという声がよく聞かれます。よい人間関係は、仕事がスムーズにできる基盤として不可欠ですが、こうした関係を築くには、お互いの間の調整が欠かせません。こうした調整は、相手を理解し、共感することができて、初めて可能になります。多くの状況で人間関係がうまく行かないのは、相手に対する理解や共感ができる前に、調整をしようとするからにほかなりません。