連載 Report from MPOD, Case Western Reserve University 「強み」に注目した、最先端の「組織開発」の現場より 第3 回 AI(Appreciative Inquiry)と 創始者クーパーライダー氏の 人となりを探る(前編)

2004年11月からケースウエスタンリザーブ大学・ウェザーヘッド経営大学院で「MS in Positive Organizational Development and Change(MPOD)」がスタートした。コース名に「Positive」という文字が入ることに大きく貢献したのがAI(アプリシアティブ・インクワイヤリー)の創始者、クーパーライダー教授の存在である。AIの紹介から、創始者の経歴、MPODクラスの風景、そして、次号では北京における「企業的社会貢献」の国際会議報告など、クーパーライダー氏の最新情報を2回にわたりお届けする。
クーパーライダー教授の登場
日本でようやくコーチングの認知が高まり、企業に導入され始めたころ、アメリカでは、AI(Appreciative Inquiry)に対する注目が高まっていた。舌を噛みそうな発音に、抵抗感を感じる方も少なくないだろう。また、AIと聞いて人工知能をイメージされる方もいるかと思う。
AIとは、本誌でも昨年度連載してきたように、「個人と組織の『強み』を引き出す参加型組織開発手法」である。その創始者クーパーライダー氏が、MPOD コースの4 日目の朝、教室に入ってきた。
満面に笑みをたたえて、瞳を輝かせ、表情はポジティブそのもの。MPOD第一期生に対する祝辞の言葉からクラスはスタートした。初めて彼を見たクラスメートは、口々に「予想した以上に若い」と言った。自分の大学院の指導教官を追い越して正教授となり、組織開発学科長を務め、いまやOD の世界では大御所として鳴らす人物だが、目をきらきらさせて熱弁を奮うクーパーライダー教授の表情は、まさに少年そのものだった。
クラスでは、AIに関する理論的・学術的説明は一切なく、いきなりAI の定番である「4-Dモデル」(後述)の体験学習から始まった。テーマは「Extraordinary Learning Community(超!最高のラーニング・コミュニティー)」。つまり、第一期生としてMPOD コースに入学した学生自身が、そのプログラムを最高のものにするか、というものだ。学生は授業を受ける受動的な存在ではなく、最高の学びの場を自ら創りあげていく能動的な立場である、という前提がある。
ここで、AIを初めて耳にする読者のために、簡単に説明しておこう。
「ポジティブな組織開発」として注目される理由

従来の問題解決型の手法は、物事のマイナス面に焦点を当ててきた(図表1)。つまり、どこが悪いのか、欠点・短所・不十分な点をリストアップして、その原因を分析し、解決策を外部から提案する方法である。もちろん、これも重要な取り組みだが、これだけでは、マイナスをゼロにできても、プラスは創っていくことができない。つまり、個々の傷口をふさぐ対症療法では、抜本的な体質改善にはつながらないのである。
これに対して、AIは、組織やグループの潜在力を引き出すことにより、あたかも肉体を構成する細胞の一つひとつが活性化され、免疫力が高まり、全身が強靭なものへと変化する発想に近い。個人の発意と創造性を活かし、組織の体質改善を図り、可能性を広げていくのが、AIのアプローチといえる。
そして、そのAI は、「4-D モデル」という非常にシンプルなステップにより展開される(図表2)。
*「Discovery」(発掘)