連載 実践シャドーコーチング 第2 回 行動目標の設定に向けて
今回から4 号にわたり、読者モデルである井戸川寿義氏(中堅メーカー総務部人事グループの課長職)と共に、シャドーコーチングの実践場面を紹介していく。実践編の第1 回目は、井戸川氏の現状の問題点の把握とEQ 検査のフィードバック、そして周囲へのインタビュー(上司、同僚、部下)結果を受けて、井戸川氏の行動目標を設定していくというプロセスを見ていく予定だったが、最後に思いもよらないNG が勃発してしまった。焦るコーチ小和田! それをどうクリアしていったかは、本文をとくとご覧あれ。
現状の問題点の把握
まずは、井戸川氏が現在悩んでいることから聞いてみた。
「最近、個別の調整事が多いのです。だれだれのモチベーションがダウンしている、中途採用者がうまく職場に溶け込めていないといった人がらみの問題。こういうことは、解決していくのに時間がかかります。そのため、人事としてやらなければならないテーマへとなかなか手をつけられていません」
人事課長という立場ゆえに、仕事がらみの話が個別に来てしまうのだろう。一方で、日常的にやらなければならない業務もある。やろうと思うと、「ちょっと来てほしい」ということで呼ばれてしまう。実際、仕事の途中で話しかけられると集中が切れてしまうのではないか。
「だからこそ、集中して取り組むわけですが、一緒にやっている女性のメンバーには話しかけにくいと言われています」
それは井戸川氏があまりに集中しているために、「話しかけないでオーラ」が出ているのだ。
「その点については、彼女に限らずよく言われます。もちろん、嫌な顔をするわけではありません。ただ、聞けるような雰囲気ではないということらしいですね」
何か「壁」のようなものがあって、実際には話しかけづらい部分があるのではないか。そういうところに対して、井戸川氏は問題意識を持っているのだろうか。
「もちろん、改めなければいけないと思っています。しかし、仕事をしているのだから仕方がないと思う部分もあります。組織人として本当のコミュニケーションとは、仕事を軸にしたものであり、それによって皆が成長するのが本筋だという気持ちが自分のなかにあります」
では、問題が解消された時には、井戸川氏としては何らかの対応やコミュニケーションは取っているのだろうか。
「もちろん、フォローをします。よくできたね、いいじゃない、といった形で相手に伝えます。ただ、そう相手に伝わっているかどうかは分かりませんが…」
察するに、井戸川氏の要求水準がすごく高いのではないか。「できたね」と言われても、本当にそうは思っていないと相手は推測してしまうかもしれない。
「そんなことはないですよ。本心で言っています。使い分けたりしているつもりはありません」
本当に井戸川氏は実直な性格なのだ。ただ、それが職場では「見え方」が変わるのも事実。どうも頑なさのあまり、周囲とのコミュニケーションのあり方にギャップが出ている気配を感じる。