営業のカリスマに聞く-1 「究極の営業」とは、 営業をしないことと心得る

製品やビジネスモデルの革新で成長を遂げる会社もあるが、やはり「モノを売る」営業パーソンの力量が、企業の業績を左右するのは間違いない。それは、いつの時代にも営業職に対する人材ニーズが極めて高いことが証明している。大西氏はリクルートを始め、数々の企業で常にトップセールスマンとして活躍し、「営業のカリスマ」として知られる。これまでどのように営業活動にかかわってきたのか、営業の「本質」と売るための「極意」について、ズバリ聞いてみた。
大学時代の教材販売では営業所長を代行した
神戸にある実家が商売をやっているという環境で育っていたせいか、幼少時からビジネスに対する関心は高かった。大学に入学した時も、商売の基本は営業活動にあると考え、大学1年生から営業のアルバイトで生計を立てていた。
見つけたアルバイトは中学生向けの通信教育用教材の販売。民家への飛び込み営業である。これを4年間、売りに売りまくった。一番多く売れた時には、月給80万円にも達した。このような売上実績があったことで、大学3年生の時には所長代行として実質的に営業所長の仕事をやらせてもらった。大学を卒業する時も、そのままこの会社に就職してほしいと言われたが、自分の気持ちは次のステップに移っていた。
いま思えば、この時代に自分がやったことは、実質的に営業マネジャーがやることだった。アルバイト募集広告を出して面接を行い、採用した学生アルバイトには商品説明や売り方を教えていった。毎日ロールプレイングを行い、報告・連絡・相談を聞き、状況を確認しながら具体的な指示を出し、かつ営業同行して売れない人を売れるようにしていった。もっとも、これをだれから教えてもらったという記憶はない。自分なりに営業活動を行ってきたなかで、自然と営業の「方程式」をつくっていったように思う。
母親を味方にして、中学生に教材を売っていった
月に80万円を売った時は、1日に50~60件もの飛び込み営業を行っていた。ただ、単なる飛び込み営業だと、なかなか自分の話を聞いてくれない。だから、どうやったらお客さまに話を聞いてもらえるかを考えた結果、ある方法を思いついた。それは、夕方に中学校の校門の前に立って、ターゲットをクラブ活動帰りの生徒に絞ったのである。クラブ活動をしている生徒はなかなか勉強する時間が取れない。勉強したいという気持ちは持っていても、家に帰ると疲れて、勉強が手につかない。ただ、先々のことを考えると、高校へはぜひとも行きたいと考えている。
そうした思いを持つ彼らを校門の前で呼びとめ、自分の仕事を説明していった。その際にセールスポイントとしたのは、自分の母校は地元で有名な神戸高校であり、中学時代の成績表はオール5だったという実績。それを彼らに見せたのである。「お兄ちゃんも中学の時に剣道部だったから、全然勉強する時間がなかった。けれども勉強にはコツがあって、それをしたから神戸高校に入れたんだ」という話をしていった。何人かは帰っていったが、この話に興味を持つ人間が必ず2~3人は残った。
この残った2~3人がポイントなのだ。彼らに対して、「もし、君たちが本気ならばお母さん、お父さんを一緒に説得する」と言って、アポイントを取っていった。そして家を訪問して、「息子さんからいろいろと勉強の相談を受けました。少しでもお役に立てればと、今日はお邪魔させていただきました」とお母さんに話をしていったのである。
勉強をやりたいという子供に対して、それをとがめる親はいない。それで、家に上がりこむことができたわけである。しばらくすると、お父さんが帰ってくるが、その時は既にお母さんと仲良くなっている。ここからはお母さんからお父さんへの説明が始まる。「この人は、神戸高校を出ているんですよ。実はいろいろと勉強の相談を受けましてね」といった感じで話が進んでいく。そうして契約を取ることができた。
その際、「教材を売り切るだけでなく、1週間後、1カ月後とフォローをしていきます。そして3カ月続けば安定すると思いますから、その時まで私が責任持って対応していきます」というフォローを忘れなかった。
とにかく自分の考えた通りに話が進み、結果が出るわけだから「営業は面白い!」と思った。就職する際にも、将来的には会社経営をしたいと思っていたから、どこに行けば本格的に営業を学ぶことができるかと考えたうえで、商社を選んだ。