連載 調査データファイル 第50 回 雇用・人事システムの構造改革 転職予備軍の大量発生

雇用の増加が見込まれている一方で、懸念される問題が社歴の浅い若手社員の離職問題だ。若手社員が何を考え、「仕事」にどんな思いを抱いているのか。離職問題を回避するためにも、その現状と向き合うことが不可欠であろう。
1. 転職希望者の増加
有効求人倍率が2 倍に迫る勢いの愛知県がある一方で、求人と求職が均衡する1 倍を大幅に下回る青森県などもあり、依然として雇用・失業情勢の地域格差は大きいものの、完全失業者350万人といった厳しい状況から脱し、雇用・失業情勢が急速に好転し始めていることは確かである。輸出頼みから設備投資や個人消費も加わって、経済成長を押し上げるという動きが鮮明になりつつある。
こうした経済状況の好転に伴い、これまで人員削減を進めてきた企業では、団塊の世代が定年到達する「2007年問題」も加わって、正社員の新卒採用や中途採用を拡大させる動きが顕在化してきている。前号の本欄で紹介したように、2006年卒業予定の大学生・大学院生に対する民間企業の求人総数は、バブル期の1989年卒業対象の求人総数と、ほぼ同じ水準になってきている。
求人を増やそうとしている企業は、人員計画を策定して「いかに良い人材を計画通りに採用するか」といったことに知恵を絞ることになる。しかしながら、こうした人員計画の裏には、思わぬ落とし穴が存在している。過去の傾向を前提にした在籍社員の離職問題である。過去の離職率を前提とした要員計画は、離職者が急増すれば根底から覆されることになる。しかも、離職者のなかに将来を嘱望されている優秀な若手社員が数多く含まれていれば、人材の量的問題に加えて、深刻な質的問題に直面することになる。
問題が深刻化する可能性は大いにある。不況が深刻化した90年代後半以降、就職戦線は、まさに「氷河期」であった。採用される側から見れば、正社員で採用される確率が非常に厳しかったため、望まない会社に不本意な就職をした者も多いはずである。景気が回復して人手不足が顕在化すれば、こうした不本意就職者は転職行動を具体化させるはずである。
総務省統計局「労働力調査(速報)平成17 年5 月結果の概要」によれば、転職希望者は616万人にも達しており、平成6 年の504 万人と比較すると、実に100 万人以上も増えている。また、雇用者総数は5447万人であるから、雇用者の11.3%は転職予備軍ということになる。