Case 人事サービス・コンサルティング 系列・業種の垣根を超えた3 社の提携で 10万人を超える社員に人事サービスを提供
人事業務のアウトソーシングの一形態として、大手企業を中心に主流となっているのが企業グループ内のシェアードサービスである。そんななかで、業界を驚かせたのが、住友信託銀行、松下電器産業、花王の3 社を中心に設立された人事サービス・コンサルティングである。企業グループや業種の垣根を超え、3 社合わせて約10 万人もの社員の人事サービスを担う同社。その目的と現状などをリポートする。
人事の定型業務はインフラ
2002年5月、人事関連のサービスを企業に提供する新しい会社が設立され、多くの注目を集めた。その会社は人事サービス・コンサルティング。注目を集めた理由は、同社が住友信託銀行、松下電器産業、花王という、企業グループも業界も全く異なる3社によって設立されたところにあった。日本の大手企業では、グループ内で人事業務を集約するシェアードサービス会社を立ち上げるのが一般的な流れだからだ。3社は、このような会社をなぜ設立したのだろうか。
「給与計算や福利厚生といった人事の定型業務はいわばインフラです。ですから、グループ内だけで通用するやり方ではなく、いろいろな企業が参加しやすい会社をつくりたかった」
こう語るのは、人事サービス・コンサルティング設立のきっかけをつくった代表取締役社長の武谷啓氏。会社設立以前、住友信託銀行で人事企画を担当していた武谷氏は、質の高い人事機能とコスト削減を両立できる方法を模索していた。2000年から2001年にかけては、シェアードサービス会社を設立し、グループ内の給与受託部門を創設したり、福利厚生受託事業の社内プロジェクトを立ち上げるなど、さまざまな活動に取り組んだ。
「アウトソーシングについてもいろいろと検討しましたが、当時はITに強くても人事をわかっているアウトソーサーはあまりいませんでした」(武谷氏)
そんなさなか、ニューヨークから帰国した住友信託銀行の現地社長から、「アメリカにはそういう会社がある」と聞き、01年5月に米国を視察。何千万人もの給与計算を受託する会社があることを知り、「人事業務の受託がビジネスになるということがよくわかった」(武谷氏)。人事業務のアウトソーサーについて大きな手応えを得た武谷氏は、さっそく新会社設立の構想を描き、同年の秋には松下電器や花王などに参加を呼びかけた。
「考え方としては、いろいろな会社と一緒にやればお互いにメリットがある、というかなり単純な発想です。そして、やるのであれば、グループだけとか金融機関だけというふうに色をつけたくなかった。そこで、人事の世界でも先進的な取り組みをやっているイメージのある企業さんに呼びかけたのです」(武谷氏)
では、花王と松下電器の事情はどうだったのだろうか。花王の人事出身で、人事サービス・コンサルティング設立以来同社に出向し、カスタマーサービスグループ業務企画担当グループリーダーを務める加藤俊哉氏は、次のように語る。
「花王の場合はずっと社内で徹底的な効率化を図ってきましたが、そろそろ効率化から質の向上に進みたいという考えを持っていました」
武谷氏は花王の印象を次のように語る。
「早くからシェアードサービスに取り組んでおり、他社と比較してもレベルの違うコストセーブを実現していました」
一方の松下電器は、利用者約8万人という日本最大規模のシェアードサービスを運営し、自社グループでの経験を基に外販化を検討していた時期だったという。